——具体的には、どのような政策が出てくることが望ましいのでしょうか。
冨田氏:今回、国は蓄電池や水素といったイノベーションのために、2兆円のグリーンイノベーション基金を設けました。重要分野の社会実装実現に向け、イノベーションに必要な費用となるものです。しかしそれは、産業構造を公正に転換させていくための費用とは別物です。したがって、政府には先ほど申し上げた「公正な移行」を実現していくための基金を整えていただきたいと考えています。そして、それらの基金を支えるであろう、メガバンク各社や地方銀行などを巻き込んだ支援体制を整えていただくことも重要です。
産業構造が移行への支援が遅れて、結果として雇用が失われれば地域社会や地域経済も縮小します。雇用や地域経済が負の連鎖に陥らないための予見可能性を持った政策が必要になると考えています。
——諸外国の労働組合の動きで、日本でも踏襲できれば良いというものはありましたか。
冨田氏:2021年11月に英国グラスゴーでCOP26が行われましたが、そのプロセスの中には労働組合も公式オブザーバーとして組み込まれています。
実際にヨーロッパの労働組合は、イノベーションに伴う公正な産業の移行に対して10年前から取り組んできましたし、国の中での決定プロセスに対して深く関わっているというように見えています。これに対して日本では、脱炭素にまつわる関係者の一つに労働組合が明確に位置付けられていません。
例えば、COP26のなかで、議長国のイニシアティブによる各国署名要請の中に「公正な移行」に関するものもありましたが、G7の中では唯一、日本だけ参加しなかったと聞いています。また、会期を延長までしてまとめたグラスゴー気候合意では、複数の条項に「働きがいのある仕事と質の高い雇用の創出を促す」や「公正な移行が必要である」という内容が組み込まれているのですが、日本ではほとんど報道されていないというのが実情です。
—労組自身の取組みとして、脱炭素に向けた動きなどはありますか。
冨田氏:連合は今後2年間の運動の中で、労働組合として「どのように脱炭素を推し進めていくか」を検討していくことにしています。連合は、様々な民間産業や公務に属する組織の集合体であり、脱炭素は大変難しい課題ではありますが、丁寧に議論を積み重ね一定の方向が合意できれば、大きく推進していくことができると考えています。また、地球温暖化対策としては、これまでも、オフィスや家庭の省エネやエコを心掛けた行動のよびかけ、植林、それから気候変動対策ではありませんが、街中のクリーンアップ運動なども、労働組合のあたり前の日常活動として取り組んできました。こうしたことは、引き続き行っていく予定です。
——脱炭素の中で大きい問題の一つとして、原子力の問題があります。再稼働が進まず反対派の声も大きい一方で、脱炭素における大きな選択肢でもあります。原子力政策についてはどのようにお考えでしょうか。
冨田氏:東日本大震災を機に、連合のエネルギー政策の見直しを行ないました。中長期的な視点で見れば、原子力に依存しない社会を構築することが必要です。しかし、そのためには原子力に代わる代替エネルギーの確保が重要で、代替エネルギー確保の目処が立つまでは、その地域の方々の理解を得ながら原子力を運用することも必要だと考えています。
また、安定かつ安価な電力源を確保するとともに、電力を使う側の意識も重要になってくることでしょう。多くの産業が属する連合の立場としては、それぞれの産業の課題感を捉えながら、エネルギーとの向き合い方を考えていきたいところです。
(Interview:本橋恵一、Text&Photo:高橋洋行)
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