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Zurichにみる脱炭素資金の潮目。ダイベストメントからクライメートテックへ

Zurichにみる脱炭素資金の潮目。ダイベストメントからクライメートテックへ

2021年10月05日

災害による経済損失額は年々膨らみ、保険金を支払う保険会社にとって気候変動対策は至上命題だ。保険世界大手のZurichは、スコープ3の具体的な削減策を明示し、クライメートテックへの資金提供にも積極的だ。脱炭素資金の流れの縮図のような同社の取組みを紹介する。

気候変動の経済損失をダイレクトに受ける保険業

WMO(世界気象機関)によると、災害による1970~2019年の世界の経済損失額は3兆6,400億米ドル。このように巨額のリスクを引き受けるのは誰だろうか? そう、保険会社だ。


画像出典『WMO ATLAS OF MORTALITY AND ECONOMIC LOSSES FROM WEATHER, CLIMATE AND WATER EXTREMES (1970–2019)

世界有数の保険大手であるZurichは、世界の215を超える国と地域でサービスを展開している。自然災害による損害額は彼らの収支にダイレクトに響く。気候変動のリスクは最大の脅威だといっても過言ではない。では、同社は今、どのような気候変動対策を実行しているのか。

チューリッヒのサステナビリティ戦略とは

チューリッヒは、サステナビリティ戦略の主要テーマに「気候変動対策」「デジタルフォーメーション」「従業員と顧客のサポート」を掲げている。この3テーマに帰着するまでに、10のステークホルダーグループと協議し、データに基づいたアプローチを踏んだという。


Zutichウェブサイトより

主要テーマの「気候変動対策」に関しては、2019年6月に「Business Ambition for 1.5℃」に保険会社として世界で初めて署名した。2022年末までにグローバルでの全事業において再生可能エネルギー100%電力に切り替えること、石炭・オイルサンド・シェールオイルを取り扱う顧客や投資先に対してビジネスの転換を促すと約束した。

なお、Business Ambition for 1.5℃は、同月に国連グローバル・コンパクト、SBTi、We Mean Businessが立ち上げた企業誓約だ。2030年までに気温上昇を1.5℃に抑える目標へのコミットを企業に求めている。

同社はスコープ1とスコープ2のカーボンニュートラルはすでに達成しており、2025年までにスコープ3の排出量を50%、2029年までに70%削減する目標を打ち立てている。そのベンチマークとして、社用車の電化を2025年までに完了し、炭素の内部価格の設定などを挙げている。

脱炭素資金はクライメートテックへ

近年は「Zurich Innovation Championship(ZIC)」というコンテストを通してスタートアップの支援にも力を入れている。優勝したスタートアップは、パイロットプロジェクトを行うための資金を獲得できるだけでなく、ZurichグループとのコラボレーションやPRの場も得ることができる。


ZIC2020の受賞者紹介ビデオ

第1回ZICで銅賞を獲得したLifeNomeは、データ駆動型のライフサイエンスプラットフォームを提供しており、Zurichのラテンアメリカ事業で共同開発のアプリをローンチした。

2021年9月現在、第3回のZICが終了したところだ。世界68の国と地域から1,358のスタートアップがエントリーし、日本からは遺伝子解析のジェノプランが国別の勝者に選ばれた。金銀銅はそれぞれ、機械学習を活用して損害保険の請求プロセスを改善するフィンテックのClaimFlo、糖尿病の仮想ケアシステムのPops、AIで気候リスク分析を行うJupiter Intelligenceという米国勢が受賞した。

Zurichは化石燃料からの投資を引き揚げ、こうしたクライメートテックを含めた持続可能な未来に資する技術を開発するスタートアップへと資金を投下している。投資の流れが大きく変わっていることがはっきりとわかる。このような方向転換は、金融・保険などの分野にとどまらない。


ZIC2021紹介ページより

ついにスコープ3の削減策にもテコ入れ

2021年9月7日、Zurichは、すでにカーボンニュートラルを達成したスコープ1,2に続いて、スコープ3の排出削減の具体策を明らかにした。航空、車両、食品や紙の使用などについて目標を定めた。例えば、航空に関してはパンデミック前と比較してグループ全体の航空の利用を7割削減するという。また、紙については、消費の80%を占める、顧客とのコミュニケーションをすべてデジタル化することで削減する。ユニークなところでは、2022年までに社内のレストランの食材を地域の季節に応じたものとし、食品廃棄物を管理するプログラムの導入も進めるという。

また、貯蓄と保険契約を組み合わせたカーボンニュートラル投資オプション「Zurich Carbon Neutral World Equity Fund」を開始し、低排出企業を対象に投資する。

さらに11月のCOP26を念頭にレポートも発行し、重工業における排出削減などの課題やカーボンプライシングの必要性、さらなる情報開示の一貫性などを指摘した。

こうした脱炭素への移行は日本にとっても対岸の火事ではない。経済産業省は、2021年5月、金融庁・環境省と合同で「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定。

今後は、脱炭素に移行(トランジション)する戦略が資金調達のカギを握るようになる。多くの日本企業が攻めの脱炭素戦略を立て、世界で活躍してほしいと思う。

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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