米政府不在のCOP25 消極的温暖化対策に高まる批判。野党はPRの機会に。 | EnergyShift

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米政府不在のCOP25 消極的温暖化対策に高まる批判。野党はPRの機会に。

米政府不在のCOP25 消極的温暖化対策に高まる批判。野党はPRの機会に。

2019/12/23

「失望」に終わったCOP25。離脱を表明したパリ協定を、アメリカ市民はどう捉えているのか。気候変動問題は大統領選にどのような影響を及ぼすのか。ニューヨーク在住の南龍太氏がレポートする。

後ろ向きな政府に非難が集中

スペインで開かれていた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)は、各国の意見集約ができずに2日間の会期延長の末、課題を残して閉幕した。

足並みの乱れを招く要因となっていたアメリカは、先月(2019年11月)正式に国際枠組み「パリ協定」からの離脱を通告。後ろ向きな姿勢に各国や環境団体から非難が集中し、アメリカ国内でも批判が上がっている。そうした声を知ってか知らずか、COP25をめぐるトランプ氏や政府の反応は聞こえてこない。

一方、温暖化対策も大きな争点となっている2020年の大統領選に向け、共和、民主両党の動きが活発化し、選挙戦を意識したアピールが目立つようになってきた。

COP25では鳴りを潜めていた現政権の共和党と、COP25の場を活用した野党の民主党。地球温暖化対策の方向性にも大きな影響を及ぼすアメリカ大統領選挙まで、10カ月余りに迫った。

暖簾に腕押し

「結果には失望した」

15日のCOP25閉幕後、国連のグテーレス事務総長がツイッターに投稿したこの言葉が会議の結果をすべて物語っていた。当初13日までだった会期を2日延ばし、COP史上最長の会期となったが、納得感のある一致点を見いだせぬまま、「気候危機に立ち向かうために地球温暖化の緩和や適応、財政支援の面で更なる野心を見せる重要な機会を、国際社会は逸した」(グテーレス氏)。

各国は温室効果ガス削減の取り組み強化という一応の合意には達したものの、妥協の産物だったことは否めない。CO排出削減に積極的な欧州や島嶼国の一部は、アメリカなどがより高いレベルでの合意を阻害する要因になったと指摘したとされる。

アメリカは2017年にトランプ政権へ移行後、早々とパリ協定からの離脱を表明している。2017年以降もCOPへ代表団を派遣してきたものの、パリ協定にとどまっている大多数の国々に協力する姿勢は見られず、国際協調と一線を画してきた。

2016年のパリ協定発効に際し、「大統領に立候補した理由のひとつは、アメリカをこの気候変動問題のリーダーにすることだった」と感慨を語っていたオバマ前大統領の方針から、180度転換してしまった。

アメリカの存在感が薄いCOPで欧州各国が相次いで脱石炭の政策を掲げる中、やり玉に上がったのは、小泉進次郎環境相の演説や梶山弘志経済産業相の「国内も含めて石炭火力発電、化石燃料の発電所は選択肢として残しておきたい」とした発言などが、温暖化対策に後ろ向きとされた日本。

国際環境NGOグループの「気候行動ネットワーク」(CAN:Climate Action Network http://www.climatenetwork.org/)が温暖化対策に消極的な国に贈る「化石賞」を、日本は2度も受賞する不名誉に見舞われた。
ただ、日本が受賞していた陰で、実はアメリカは会期中に6回も化石賞を受賞していた。日本では2度の受賞をメディアがこぞって批判的に報じたが、それを上回る回数のアメリカの受賞が報じられていた様子は、米メディアを含め見当たらない。

大統領になってからというもの、折に触れてパリ協定離脱に言及してきたトランプ氏は先月(2019年11月)上旬、ついに協定離脱を正式に通告した。

この直後、アメリカのパリ協定復帰をめぐる記者からの質問に、小泉環境相が「率直に言って、恐らくトランプ大統領に翻意を促しても不可能だと思う」と答えたように、今の米政権に温暖化対策を期待しても「暖簾に腕押し」といったような、ある種の諦めムードが漂っている。CANから「またまたアメリカが受賞!」などと皮肉を込めて化石賞を再三再四贈られても、意に介していないのだろう。

グレタさんにはかみつく

ただ、トランプ氏も温暖化問題をめぐる自身の「難敵」の動向は気になるようだ。

「グローバル気候マーチ」を主導して時の人となっているスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが11日、米誌「タイム」の選ぶ「今年の人」(person of the year)に史上最年少で選ばれると、トランプ氏は「落ち着け、グレタ!頭を冷やせ(Chill)、グレタ!」とからかいを込めてツイッターで反応した。

「グレタはアンガーマネジメント(自分の怒りをコントロールする)問題に取り組むべきだ。それから友達と古き良き映画でも見に行けばいい」

この投稿に対し、グレタさんは自らのツイッターの自己紹介を「怒りのコントロールに取り組む10代。今は落ち着いて友達と古き良き映画を見ている」(a teenager working on her anger management problem. Currently chilling and watching a good old fashioned movie with a friend)と書き換えて応戦した。

「今年の人」としてグレタさんが表紙を飾った米誌タイムの電子掲示板、ニューヨーク市マンハッタン区で筆者撮影

トランプ氏は9月にも、国連気候サミットで演説したグレタさんに対し、「彼女はとても幸せな少女に見える、明るく素晴らしい未来を心待ちにしているようだ。見ていて気持ちがいい!」と投稿していた。

一連のやりとりを踏まえ、オバマ前大統領のミシェル夫人はグレタさんに手を差し伸べ、「疑いの目を向ける人たちは気にしないで、何百万という人たちがあなたを応援していることを覚えていてね」とツイッターで投稿していた。

前述の通り、オバマ氏は大統領だった当時パリ協定の合意に署名し、温暖化対策に消極的なトランプ氏とは相いれない立場にある。トランプ氏によるパリ協定離脱の表明を「未来の拒否だ」と指弾し、「たとえアメリカが指導力を発揮しなくても、私たちの国の州や市、企業がさらに力を入れて道を切り開き、ひとつしかないこの惑星を未来の世代のために守っていくと確信している」と訴えていた。

そのオバマ氏はCOP25が開かれていた会期中の13日にマレーシアで若者らを前に講演した。温暖化対策の重要性を説き、「私はまだ地球温暖化の進行を遅らせることができると楽観的でいる」と話していた。

大統領選に向け高まる政権批判

オバマ氏のように、温暖化対策に後ろ向きな現在のトランプ政権に異を唱える人々は勢いを増している。特に、COPでの米政府による情報発信が乏しい中、批判的なアメリカの著名人の姿は余計に目立つ。

昨年のCOP24では、気候変動問題に積極的に取り組むカリフォルニア州で知事を務めた俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏が演説し、トランプ氏を「いかれた指導者」と名指しで非難、対策が急務だと強調していた。

今年のCOP25には環境保護活動に熱心なことで知られる俳優のハリソン・フォード氏が登場し、「政府は勇気がない」とトランプ政権をなじった。環境問題を提起してノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元副大統領も参加した。

中でも象徴的だったのは、来年の大統領選に向け、民主党からの候補者指名争いに先月下旬に名乗りを上げたばかりのマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長だ。富豪実業家として知られ、2017年にはトランプ氏によるパリ協定離脱表明にあらがう形で「私たちはまだ中にいる」(We Are Still In)という組織を発足させ、賛同する企業や自治体と共に温暖化対策に当たってきた。トランプ政権がやめた条約の負担金も肩代わりしてきた。

ブルームバーグ氏は会期終盤の10日、COP25の会場で「加速するアメリカの約束」(Accelerating America's Pledge https://www.bbhub.io/dotorg/sites/28/2019/12/Accelerating-Americas-Pledge.pdf)と題した報告書を通じ、2030年までに同国の温室効果ガスの排出量を2005年に比べて最大37%削減できる可能性を明らかにした。さらに政府の積極関与によって49%まで深掘りできるとし、「選挙が楽しみだ。新たな大統領が誕生する」と話し、民主党による政権奪還に意欲を示した。

政府不在のCOPを舞台としたこれら一連の動きを、米CNNも「トランプの助けがなくとも、アメリカの他のリーダーたちだけで気候変動と闘っている」(Without Trump's help, America's other leaders go it alone in the fight against climate change)と報じた。

ブルームバーグ氏の出馬表明に対し、ニューヨーク市長時代に不遇を感じていた層などからは早くも不満の声が出ている。一方で同氏の参戦は、オバマ氏が警戒しているような民主党候補者の「極左傾向」が、中道寄りに引き戻されることにつながると期待する向きもある。民主党指名争いが20人近くに上る中、政策論争に一石を投じそうだ。

大世論の大勢は「対策不十分」

大統領選まで10カ月余りとなる中、舌戦は熱を増し、支持拡大を目指す各候補者のせめぎ合いが続く。

前述のブルームバーグ氏の報告書で、「アメリカの多くの州や都市、企業、大学がパリ協定に賛同し、取り組んでいる」との趣旨が記載されているように、連邦政府の動きとは別に、自治体や企業は独自の対策を進めている。

COP25が閉幕した15日にも、ゴールドマンサックスグループが火力の炭鉱や北極圏での石油開発への直接的なファイナンスを停止する際の環境基準を更新すると報道されるなど、温暖化対策を強化する動きは日々、アメリカで起きている。

そうした動きを否定するかのような現政権の姿勢に、もろ手を挙げて賛同する人はアメリカ国内でも少数派だ。

COP25開幕の直前先月下旬、民間調査会社のピューリサーチは、成人したアメリカ人を対象とした「気候とエネルギーに関するアメリカ世論」(U.S. Public Views on Climate and Energy https://www.pewresearch.org/science/2019/11/25/u-s-public-views-on-climate-and-energy/)の調査結果を公表し、「大半のアメリカ人は水や空気の保護、気候変動への影響の低減といった点について、連邦政府の活動が不十分だ」と指摘していた。すなわち、67%のアメリカ人成人が「気候変動への影響を減らすには、連邦政府の取り組みは小さ過ぎる」と回答した。この傾向は2018年に実施した同趣旨の調査と似た傾向を示したという。

こうした考えを持つ回答者を支持政党別に見ると、民主党支持層では90%に上るのに対し、共和党支持層は39%にとどまる。ただ共和党内も、思想別では「穏健派・リベラル派」は65%が取り組みが不十分と答え、同24%の「保守派」と対照的だった。一方、保守派の26%は「政府は(温暖化対策を)やり過ぎている」と答えている。温暖化をめぐり、揺れ動くアメリカの国内世論がうかがえる。

(出典:ピューリサーチ「U.S. Public Views on Climate and Energy」)

選挙もCOP26も、あと10カ月余り

来年、2020年のCOP26はイギリス・スコットランド西部のグラスゴーで11月9~19日に開かれる。11月3日のアメリカ大統領選の6日後だ。パリ協定からの正式離脱も選挙後の11月4日に控えている。

ただ、離脱の是非を含め、大統領選の結果いかんで気候変動問題に臨むアメリカの政策は大きく変わってくる。まさに選挙と温暖化対策は密接に関わっており、選挙戦が激しくなるにつれ、ますます気候変動問題の取り組みが両党、各候補にとって大きなイシューになることは間違いないだろう。

今後のアメリカ、ひいては世界の温暖化対策が加速するか、それとも停滞するか——。行方から目が離せない大統領選は約10カ月後に迫っている。

南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。