エルゼビア:400万本の論文分析から見える SDGsに学術研究がもたらす力とは | EnergyShift編集部

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エルゼビア:400万本の論文分析から見える SDGsに学術研究がもたらす力とは

エルゼビア:400万本の論文分析から見える SDGsに学術研究がもたらす力とは

2020/12/25
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2020/12/25
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学術論文の世界的権威であり、各種の情報分析サービスのグローバル企業、エルゼビアが、2020年秋に、世界のSDGs関連研究動向を調査し、レポートを公表した。これによると、パートナーシップを除く16のゴールのうち、「健康と福祉」をはじめ、「エネルギー」や「気候変動」に関する研究が多いという。また、日本は海外と比較するといくつかの違いが見られる。エルゼビアのAnders Karlsson氏に、レポートからわかること、望まれる対応などについて話をうかがった。

5,000社400万本の論文を調査

― 最初に、エルゼビアとはどのような企業なのか、その点からお願いします。

Anders Karlsson氏:エルゼビアは140年の歴史を持ち、2,960の学術ジャーナル、48,000を越える出版物を刊行しています。科学だけではなく医療分野の情報サービスも行っており、現在ではRELXグループの一員です。

エルゼビアは、ソーシャル・レスポンシビリティ(社会的責任)にコミットした事業を行っており、関連レポートの作成なども行っています。RELXグループはフィナンシャル・タイムズには、ソーシャル・レスポンシビリティに取り組む企業として取り上げていただいていますし、国連グローバル・コンパクトでは36社あるリーディングカンパニーの1つに選定されています。

各国政策の分析も行っており、実際に政府に政策の策定のための助言なども行っています。日本でも内閣府やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に対して協働や助言を提供しています。

― 今回作成したレポート「The Power of Research to Advance the SDGs(SDGsの促進に研究がもたらす力 )」は、どのような手法でまとめたのでしょうか

Anders氏:ソーシャル・レスポンシビリティの役割を果たすためにも、この様なレポートを作成して発表することはエルゼビアにとっても重要なことです。

今回のレポートは、エルゼビアの出版した論文だけではなく、5,000社を超える学術出版社の論文データを集約した、エルゼビアが所有する世界最大級の抄録・引用文献データベースScopusを使い、当社独自のマッチングツールを使って分析したものになります。

SDGsが採択されたのは2015年ですから、そこから2019年までの5年間に発表された、約400万本の論文が調査の対象となりました。

それぞれの論文が、SDGsのどのテーマに該当するのかは、キーワード検索で抽出するのですが、キーワードの定義にあたっては、各分野の専門家に確認してもらっています。また、実際に抽出された論文をもとに、キーワードの定義が適切だったかどうかも検証し、定義しなおして再度抽出しなおしました。こうした検証と抽出の作業を繰り返し、同時にAIによるマシンラーニングによる改善も行った上で、最終的なレポートのデータになっています。こうした取り組みを行っているのは、我々だけだと思います。

― この5年間を通じて、SDGsに関する研究は増えているのでしょうか。

Anders氏:ゴールだけではなく、169のターゲットごとに分類していますが、全体としては実際に増加傾向にあることが分析でわかりました。また、ゴールごとの増加傾向や、国や地域別での傾向も読み取ることが出来たのです。


実際のレポート SDGs7 エネルギーに関連する論文分析 インフォグラフィックで表現されている

日本が「気候変動」関連論文が少ない理由は?

― ゴールごとに論文の数は異なるということですが、具体的にどのようなゴールが多いのか、またそこにはどのような背景があるのでしょうか。

Anders氏:ゴール3の「健康と福祉」が突出して多いことは、グラフからわかりやすいと思います(下図)。これは、医学的な論文が多くの場合この分野に入ることで、突出しているのです。このゴール3を除外すると、相対的にゴール7の「エネルギー」とゴール13の「気候変動」が多くみられます。またこのゴールは、互いに強くリンクしているということも言えるでしょう。

2010-2019における世界のSDGs関連の論文数


エルゼビアが所有する研究分析ツールSciValより 上図はSDGs3を含む、下図はSDGs3以外の論文数
2015年から2019年における(世界の)論文数全体の増加率は20.1%、日本での論文全体の増加率は4.9%。うち、SDGs関連の論文数の増加率は26.5%、日本での増加率は14.4%。

― 日本を含めた、各国の論文数の順位も気になります。

Anders氏:「エネルギー」に関しては、中国が1位、米国が2位、日本は8位です。日本は「健康と福祉」では6位なので、これは相対的に少ないといえるでしょう。

「気候変動」になると、米国が1位、中国が2位であるのに対し、日本は15位です。なぜ低いのかというと、今回の分析ではローカル言語(日本語)の論文をカウントしていないからということもあると思います。

ただ、気候変動等の分野は国の政策や予算付けで左右される面もあります。日本は優れた技術があるにもかかわらず、気候変動対策への国のコミットメントが弱いと読むことも出来るでしょう。

いずれにせよ、研究についてのランキングとして考えると、日本のポジションが低いのは意外でした。今後、国や産業界がSDGs関連の研究に対してどのくらい協力的になるのか、そこでイノベーションや研究成果の差が出てくると思います。

日本、イギリス、EU28カ国、米国、中国におけるSDGs関連論文数(正規化データ)


エルゼビアが所有する研究分析ツールSciValをもとにエルゼビアが作成 各ゴールの論文数が全体論文数に占める割合

エネルギー分野では、日本はリチウム、水素などが強い

―「エネルギー」ではどのような分野の研究が多いのでしょうか。

Anders氏:リチウムイオンバッテリーが大きくなっています。また、水素製造も伸びています。この2つは日本の強みといえるでしょう。日本はマテリアルサイエンス(材料科学)が強いので、これらは日本にとっても重要な分野だといえます。

とはいえ、「エネルギー」の世界全体を見ると中国が1位で、そこでは太陽光発電などを含め、ぬけてきている感があります。

― 日本でも注目されている、スマートグリッド関連の研究は海外では多いのでしょうか。

Anders氏:この分野は、「エネルギー」だけではなく、「住み続けられるまちづくり」にも関連しており、日本でも海外でも関心が高いようです。

日本とゴール7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」


2015-2019年におけるゴール7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に関する日本の研究動向.エルゼビアが所有する研究分析ツールSciValより

―「気候変動」に関しては、どのような傾向があるのでしょうか。

Anders氏:論文の数自体は増えており、国際共同研究の割合が高い傾向があります。論文テーマとして「気候変動」に掛け合わせた各地域のキーワードが顕著なのが特徴です。例えばアジアでは「モンスーン」というキーワードが強い。地域別での国際共同研究、という切り口で見てみるとおもしろい結果がでるのではないかと思っています。

日本とゴール13「気候変動」


エルゼビアが所有する研究分析ツールSciValより:2015-2019年における日本の5,202本の論文の上位50のキーフレーズ


エルゼビアが所有する研究分析ツールSciValより:2015-2019年における世界の184,780本の論文の上位50のキーフレーズ

科学をベースにした長期的視点でのアドバイスを社会に

― 日本の論文が少ない分野はどのようなものでしょうか。

Anders氏:ゴール1の「貧困」、ゴール5の「ジェンダー」、ゴール10の「人や国の不平等」は少ない分野です。とはいえ、これら人文・社会科学的分野の場合、現地語の論文が多く、これらは対象から外れてしまっているので、相対的に少なくなっているのではないかと思います。

逆にテクノロジー寄りの分野は、多いという傾向があります。日本は海洋国家ということもあり、ゴール14の「海の豊かさを守ろう」は多い分野です。

― 典型的な日本像として、テクノロジーには強いが人権への意識は低い、という傾向がそのまま反映されているということは考えられますか。

Anders氏:そうとは限りません。

最近言われている、ソサエティ5.0というのは、いいコンセプトだと思っています。そこでは、テクノロジーを人間や社会にとって有益なものとして展開していく、そこへの期待値は高いといえます。世界的にも新たな教育、特に大学像として、次の3つが求められており、日本も例外ではないということです。

第一に、卒業後に官僚や企業で活躍する学生に対し、どのような教育をしていくことかが重要です。そこで大学での役割の重要性ですが、異なる様々な分野にわたる、学際的な追及が求められるようになっています。

第二に、環境的に研究機関として整っていることも、大学の役割として重要です。

第三に、政府に対して助言を行っていくことも、大学の役割です。2030年、あるいは2050年といった長期的な観点からアドバイスができるかどうかが、大学に求められています。

― 第三の点について言うと、2020年11月現在で、日本で大きな問題となっていることでもあります。政府に都合の悪いアドバイスをする学者を排除しようということです。

Anders氏:日本の問題について、私はコメントする立場ではないので、差し控えます。一般的な考えとしては、グローバルで科学的なアドバイスは、政府にとっても重要なものです。また、学術界からの助言は独立性の高いものでなくてはなりません。

学術研究の自由を担保していくことで、その内容が世界中で普遍的なものとなっていきます。確かに政府は耳の痛いアドバイスは聞きたくないかもしれません。それでも、そうしたアドバイスに耳を傾けることの重要性は、世界中で認識されていますし、エルゼビアも140年以上にわたって、政府に助言をしてきました。

また、スウェーデンの若い環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんも、「私ではなくサイエンスの声を聞け」と言っています。エビデンスベースのアドバイスには耳を傾けるべきだということですが、私もその通りだと思っています。

SDGsも残り10年間です。気候変動問題については、目標達成のために行動できる時間が限られています。したがって、科学者が互いに効率的に協力できる体制をとる必要があるし、社会と科学の間のギャップを埋めることも必要です。

高い技術を持つ日本は、アジアのリーダーになることも可能

― エグゼクティブ・サマリーには、興味深い項目がありました。それは、新たな視点として、「性別とジェンダーはすべてのSDGsに関係する」というものです。実際に、気候変動問題においても、ジェンダーは1つのテーマとなっています。そこで気になるのが、日本においてジェンダーの研究が少ないという結果になっていることです。

Anders氏:その点に関しては繰り返しになりますが、人文・社会科学分野の論文は現地語が多いということが影響しています。

全般的には、SDGsの論文のうち、どのくらいがジェンダーについて取り扱っているのかというと、例えば「気候変動」では3%しかありません。実際には、気候変動の影響は、女性や子供により大きなものとなっているにもかかわらず、です。気候変動について、半分の人たちについての研究がなされていないということになります。

その上で、ジェンダーと科学については、2020年3月に別にレポートを公表しています。これには日本からも協力いただいています。

― 16のゴールのうち、「健康と福祉」に代表されるように、市場経済と相性のいい研究が多いのではないかと感じました。逆に「貧困」や「教育」など市場経済とは必ずしも相性がいいわけではない研究は少なくなっている。そのような見方ができるのではないかと思いました。

Anders氏:SDGsについての私たちの見方は、ミッションドリブンであるというものです。

市場経済に近いゴールもありますが、そうではないものもある。しかし、互いにリンクしており、社会的にドリブンしていく構造を持っています。国や地域ごとに、気候変動や公衆衛生などの課題があり、これに対してインフラを結集して取り組んでいこうという考えです。

こうした中にあって、私たちのレポートで明らかになったことは、解決すべき課題に対し、教育などの分野ではギャップがあることが明らかになったということです。このようなギャップを解消し、社会的問題を解決していくための糸口にしていくことが必要です。

― 日本の未来について、明るい材料はありますでしょうか。その点について、コメントをください。

Anders氏:日本はAIの高い技術がありますし、インフラも整っています。他の国にも旅行で訪れたことがありますが、東京など日本の都市部は、世界の中でもクリーンな状態の都市だと思います。日本は決して劣っているわけではありません。また、企業も研究者も課題には積極的に取り組んでいます。アジアのリーダーになれる国なので、自信を持って強みを発信していただきたい。

地政学的には中国が強いように見えるかもしれません。しかし日本はテクノロジーも知識も持っているし、社会の成熟度も高い。きちんと取り組んでいけば明るい未来があると思います。

デジタル化については、SDGsとしっかり組み合わせられる分野として再生可能エネルギーがあります。例えば、テスラのバッテリーの活用においては、日本企業の持つデジタル技術をいかに活用していくのか、こうしたことが重要だと思います。

AIについても同様です。日本の持つ技術として、SDGsとAIやデジタル技術をいかに組み合わせていくのか、ということになります。

― そのような研究がポイントになってくるということですね。日本へのアドバイス、ありがとうございます。

Anders氏:いずれにせよ、日本は高い再生可能エネルギー関連の技術があります。そのことは自信を持っていいと思います。

Anders Karlsson
Anders Karlsson

アンデーシュ・カールソン(工学博士) エルゼビア・ジャパン株式会社Vice President, Global Strategic Networks 在日スウェーデン大使館 科学技術参事官として日本と韓国の責任者を5年間務めた後、アジア太平洋地域の関係機関等との関係構築をサポートする担当者として、2012年にエルゼビアのグローバル・ストラテジック・ネットワークス部門に、ヴァイスプレジデントとして入社。 スウェーデン王立工科大学(KTH)で電気工学において修士、物理工学で博士号を取得後、スウェーデン王立工科大学量子フォトニクス教授を10年務め、EUルネ・デカルト研究賞を受賞。その後、NTT基礎研究所客員研究員/講師、アメリカのスタンフォード大学、パリのエコール・ポリテクニーク大学、中国の浙江大学、そして大阪大学の顧問としての役職を歴任。 科学コミュニケーションに非常に強い関心を持ち、リサーチマネジメント、科学と技術イノヴェーション政策、科学の結果が社会的にどのようにインパクトをもたらしたかについての講演を多数行う。

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