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逆境のエクソンモービル、CCS(カーボン回収・貯留技術)などで脱炭素の道を探るも、まだ十分ではない

逆境のエクソンモービル、CCS(カーボン回収・貯留技術)などで脱炭素の道を探るも、まだ十分ではない

2021年01月27日

2021年1月5日、石油・ガスの世界大手エクソンモービルは、環境への取り組みをまとめたレポート『2021 Energy & Carbon 』を発表した。前月には2025年までのスコープ1・スコープ2の削減目標を明らかにしたばかり。脱炭素の潮流の中で苦境に立たされる大手の苦悩がにじみ出た内容となった。

2025年にGHG15~25%削減。スコープ1・スコープ2の目標を明示

『2021 Energy & Carbon』レポートは、エクソンモービルの取り組みを4分野に分けてつづっている。4つの分野とは、以下の通り。

  1. 自社事業による直接・間接的な排出量の削減(スコープ1・スコープ2)
  2. 顧客の排出削減に役立つ製品の提供
  3. 拡張可能なテクノロジーソリューションの開発と展開
  4. 気候関連の政策への積極的な取り組み

自社事業による排出量削減については、2020年時点においてメタンガスとフレアガス(油田やガス田から発生するガスを焼却する際に発生する炎によるガス)の削減目標はほぼ達成できるとされている。

2025年削減目標としては、いずれも2016年比で、メタンガスは15%、フレアガスは25%の排出量削減を目指していた(フレアガスに関しては、世界銀行のイニシアチブが定めている2030年の削減目標と整合性があると強調した)。

2025年の目標値では、メタンガスの削減量を同40~50%、フレアガスを同35~45%とした。これにより、温室効果ガス全体で15~25%の削減を目指す。

その他の施策では、炭素回収・貯留(CCS)技術等への投資、プラントの省エネ投資、バイオ燃料への投資、プラントでのコージェネレーション(熱電併給)促進、役員報酬と環境KPIの連動等を挙げた。

今回の目標設定はパリ協定と整合性があり、米国政府のパリ協定復帰も支持すると表明するなど、パリ協定を全面的に推し出している。カーボンプライシングも引き続き支持することも表明した。

2025年のGHG排出量削減プラン


ExxonMobil "Energy & Carbon Summary"より

スコープ3データ開示も、目標示さず

スコープ1・スコープ2に関して明確な目標値が示された一方、スコープ3(企業のバリューチェーンで発生するその他すべての間接的排出量)については明らかな目標は示されなかった。ステークホルダーからの要請に応じてのデータ開示は行ったが、同レポートには『スコープ3の排出量の報告には、企業の製品の管理外での消費と使用に起因する間接的な排出量が含まれているため、確実性と一貫性が低くなる』という注釈を付している。

政府機関や学術機関、産業界などと協力を深めながら、バイオ燃料や大気中のCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)などの技術開発を進めることで、脱炭素化に対する責任を果たす、と述べられている。オイルメジャーならではの苦悩がにじみ出ているようだ。

スコープ3の開示されたデータ


ExxonMobil "Energy & Carbon Summary"より CO2換算 単位:百万トン

CCSのリーディングカンパニー。世界の貯留量5分の1のシェア誇る

取り組み分野の2、「顧客の排出削減に役立つ製品の提供」に関しては、天然ガスの開発や、物資や梱包の軽量化、先進的な燃料開発に注力することで脱炭素化に貢献するとされた。

次の分野3、「テクノロジーソリューションの開発と展開」では、エクソンモービルが30年以上にわたり取り組んでいるCCS技術について詳述されている。

日本ではあまり知られていないが、同社はCCSのグローバルリーダーだ。そのCCS能力は非常に高く、世界のキャパシティの実に5分の1に相当し、1970年代からの累計の炭素貯留量は世界一だ。

年間で約900万トンのCO2を貯留でき、アメリカをはじめオーストラリアやカタールなどですでに実装されている。欧州最大のCCSインフラ建設プロジェクトのメンバーでもあり、ベルギーのアントワープ港におけるプロジェクトが進行中だ。

1970年からのエクソンモービルが貯留したCO2の累計(単位:100万トン)


ExxonMobil "Energy & Carbon Summary"より

エクソンモービルのCO2貯留キャパシティ


ExxonMobil "Energy & Carbon Summary"より CO2換算 100万トン/年

石油・ガスの脱炭素化への貢献を強調

エクソンモービルの注力する取り組みは上記を含め4分野にわたるが、実はレポートの大半がIEAやIPCCのシナリオ分析に充てられている。また、同社の取締役会に専門性の高いメンバーを集めて結成されたとされ、レポートの信頼性の高さも主張されている。

こうしたリソースを明らかにしたうえで同社が強調したいことは、将来にわたる石油・天然ガスの重要性だ。今後、20年間で石油と天然ガスの重要性は変わらないと述べ、IPCCの2.0℃未満シナリオ下においても同様だと主張している。中でも、天然ガスによる火力発電は、調整機能として低炭素電源へのシフトや産業用途において要となると予想している。

米国で相次ぐ石油大手の提訴。1.5℃シナリオのプレッシャーも増す。

アメリカではここ数年、州政府が石油メジャーなどを相手に気候変動で提訴することが増えてきている。2018年には、ニューヨーク州がエクソンモービルに対し「同社の事業が気候変動問題に与えるリスクについて、投資家に虚偽の報告をした」として同州最高裁判所に提訴した。また、2020年6月には米国の首都ワシントンDC州政府が、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、シェブロンを気候変動問題で消費者に対し誤った情報を与えたとして提訴した。

脱炭素化の加速する流れの中、石油大手は逆境ともいうべき状況に立たされている。CCSのような新技術の開発は、厳しい世論と闘ううえでの一筋の光明のようにも見える。

しかしその一方で、今回のレポートは、あくまでパリ協定における「2.0℃シナリオ」への対応となっている。しかし、国際社会は「1.5℃シナリオ」へ向かっており、なお、ギャップがあるという指摘もできるだろう。

参照
ExxonMobil "Energy & Carbon Summary"

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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