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産業移行の遅れが産み出す負の連鎖とは 連合に訊く、気候変動政策に労働者の声を反映させよ シリーズ:雇用とカーボンニュートラル(3)後編

2022年01月25日

脱炭素に向けた経営方針と成長戦略は労使で共有を

—改めて産業政策に対して国に求めたいのはどういったことでしょうか

冨田氏:冒頭で申し上げたように、一番必要なことは、日本という国全体が、どのように脱炭素に向かっていくのか、その道筋と複数のシナリオをつくることです。脱炭素の目標となっている2030年や2050年というのは遠い先のようですが、実際にはすぐにやってきます。日本が世界の脱炭素動向の中で取り残されないようにするためには、国内外に向けたリーダーシップを国が発揮するとともに、国内においては、各主体を巻き込み、公正な移行の実現に向けた議論を国がリードすることが重要だと思います。

また、カーボンニュートラルに向かう道筋の中では、CO2の排出量に関わらず、すべての労働者が誇りをもって仕事に従事できるようなメッセージを国が出すことも期待したいと思います。

—各企業の経営者層に対しては、どのようなことを求めますか。

冨田氏:現在、水面下も含めて、様々な企業がすでに気候変動対策へ取り組んでいるでしょうし、またそれらが各社の成長戦略と密接に結びついていることも理解しています。ですので、可能な限り早い段階で、企業がどこに向かっていくのか、労働者と共有していただきたいと考えています。そうすることで、労働者はモチベーション高く働くことができると思います。経営層と労働者の情報共有や対話こそが、一番重要な点でしょう。

さらにこの点について付け加えると、現在の労働組合の組織率は現在20%弱ですが、労働組合のない80%超の労働者に対しても、経営との対話の機会が設けられるようにしていただきたいと思います。

―産業移行にあたって、労働者の所得を守っていくことも重要な課題だと思います。

冨田氏:そもそも、労働によって生み出される付加価値(生産性向上)はもっと評価されるべきだと考えています。日本は労働生産性が低いと言われていますが、決してそんなことはありません。時間あたりにしてしまうと、労働時間が長いため、評価が低くなりますが、実際の生産性は決して低くありません。また、サービス生産性が良い例です。サービス産業において、質の高いサービスを提供するには、それを支える労働者の存在があるのですが、提供されたサービス(労働)に対価を支払う必要がないと誤解されているケースもあります。通信販売などで「送料無料」とありますが、実際には無料ではなく、店側が負担しているにすぎません。こうした労働に価値がないと誤解されるような表記は改めるべきですし、提供されたサービス(労働)には適切な対価を支払うことが当たり前の社会に変える必要があります消費者意識の変革で商品やサービスの価値を高め、それが適切に賃金に反映されれば、結果として更なる生産性向上につながり、経済成長にもつながっていくと思います。

公正な移行においても、こうした視点を持つことが重要で、移行に伴って労働者の処遇が切り下げられるようなことは、断固として避けなければならないと考えています。

(interview:本橋恵一、Text&Photo:高橋洋行)

 

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冨田珠代
冨田珠代

1989年 日産自動車(株)入社 2004年 全日産労働組合 常任委員 2008年 日産労組 中央書記長 2014年 自動車総連 副事務局長 2017年 連合 総合労働局長 2019年 連合 総合政策推進局長 ~現在に至る 公職:金融政策審議会総会委員、他

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