水素の生産・消費が世界最多の国、中国のエネルギー戦略とは | EnergyShift編集部

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水素の生産・消費が世界最多の国、中国のエネルギー戦略とは

水素の生産・消費が世界最多の国、中国のエネルギー戦略とは

2020/09/17
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中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望(5)

中国政府は気候変動対策として、他国に先駆けて水素を主要エネルギーのひとつに位置付けており、国として様々な取り組みを推進している。中国の水素エネルギーの現状と将来像はどのような姿を描いているのか。デジタルリサーチの遠藤雅樹氏が解説する。

気候変動と大気汚染を解決する水素エネルギー

中国政府は水素エネルギーについて、イノベーション主導の開発計画を策定し、エネルギー産業(電力、熱)と輸送分野(自動車、列車、船舶)という主要産業で実用化を図ろうとしている。燃料電池開発のサプライチェーン育成と並行し、水素エネルギー開発と産業チェーン形成にも注力している。

中国水素エネルギー開発の眼目は、輸送分野のクリーン燃料という側面のほかに、輸入に依存しないエネルギー自立の最終手段として水素を位置付け、エネルギーの国内調達率を高めるキーファクターとして水素を重視する戦略をとっていることだ。

中国の一次エネルギー消費構成(2018年)は石油が20%、天然ガスが7%、石炭が58%、原子力が2%、水力が8%、再生可能エネルギー等が5%となっていて、一次エネルギーの50%以上を石炭に依存している。

石油の70%、天然ガスの46%は海外からの輸入に頼っており、石炭への過度な依存は深刻な大気汚染を引き起こしている。自動車市場の急速な拡大はガソリン消費を激増させ、石油輸入量も拡大基調にある。再生可能エネルギーと水素エネルギーの大規模導入は、そうした問題を一気に解決する手段となりえる。

中国政府は、2015年パリ開催のCOP21で合意された「パリ協定」において、CO2排出量の削減を中国の責務と認め、CO2排出量を2030年までに2005年比で60~65%削減し、一次エネルギー消費の非化石エネルギー比率を20%まで引き上げることを表明した。

中国にとって、COP21で表明した国際社会に対する責務を果たすことと、エネルギー自立を達成することは、国というクルマの両輪であろう。

中国政府は2020年から水素をエネルギー源とみなし、エネルギー統計にも計上する。水素をエネルギーのひとつと明確にカウントしたのはおそらく中国が初めてだろう。水素を利用したエネルギーの国産化政策の推進は、エネルギー安全保障にもつながるとみているのだろう。中央政府の方針を受け、地方政府は陸続として「水素エネルギー産業発展行動計画」を策定しつつある。

中国の「再エネ由来水素」の可能性

中国は東に長い海岸線をもち、西の内陸部には広大な砂漠地帯が広がっている。中国は莫大な再生可能エネルギーを生み出せる国土を持っている。それを有効活用できるのは水素しかない。

各地に再生可能エネルギー発電所を設置し、余剰電力を水素に変換して需要地まで輸送する。

再生可能エネルギー開発と水素製造は内陸部の地域振興、産業開発にも貢献するし、都市部の環境改善にも、クリーンエネルギー需要を満たすことにもつながる。電力を水素に変換して貯蔵できれば、季節変動にも消費変動にも対応できる。膨大な投資が必要な送電線を張り巡らせる必要もない。パイプラインや長距離トラックで、液体や気体や固体の形状で輸送できる。水素は、自動車、列車、船舶、飛行機、産業車両など輸送分野の燃料にも、アンモニアなど化学工業の原料にも、電力への再変換(ガスタービン、燃料電池)にも利用できる。

中国政府は水素エネルギーの持つ潜在的なパワーに着目して、中国を世界最大の再生可能エネルギー(太陽光発電と風力発電)大国に押し上げたように、また、世界最大の電気自動車産業と市場を現出させたように、長期的なビジョン策定と指導性を発揮して、水素エネルギーによるエネルギー変換を成し遂げようとしているように見える。

出典:OECD/IEA

ブラウン水素+CCSも重要な選択肢

中国は現状でも、既に世界最大の水素生産、消費国である。

中国における水素生産量は約2,100万トン(2018年時点)で、全世界の総生産量の約30%を占める。

中国における水素製造方法は、石炭からの水素製造が62%、天然ガスからの水素製造が19%、苛性ソーダや塩素を製造する過程で出てくる副生水素が18%、水電解による水素製造が1%という内訳で、いわゆるブラウン水素とブルー水素が80%以上になっている。中国における水素需要量は2030年に3,500万トン、2050年には6,000万トンに達すると予測されている。

中国における水素製造は、短期的には安価な石炭ガス化と副生水素が主体になるが、長期的にはCCS(CO2回収・貯蔵)を組み合わせた石炭ガス化と再生可能エネルギーによる水電解水素製造になると思われる。

中国の再生可能エネルギーの設置容量は2018年時点で、太陽光発電が174GW、風力発電が184GWで世界最大である。風力発電と太陽光発電には、電力を送電する電力網が許容量を超過するため大量の余剰電力(破棄電力)が発生している。この余剰(破棄)電力を利用して水素を製造しようという試みが内陸部で始まっている。この余剰電力が当面の水素源となる。2018年に廃棄された風力発電量と太陽光発電量の合計は277億kWh。これで理論上は50万トンの水素製造が可能であり、燃料電池自動車10万台に水素が供給できる計算になる。

風力発電の総容量は、「国家中長期発展計画」によると2020年末までに200GW、2050年末までに1,000GWを超える見通しだ。
中国政府は、風力発電による水素製造を重視する立場から、天然ガスパイプラインに水素を注入して輸送し、沿岸部で燃料電池自動車の燃料や石油精製に活用すること、水電解技術の向上、水素貯蔵技術の向上、経済性だけでなく環境面での優位性を評価すること、などを同計画で指示している。

連載:中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望

遠藤 雅樹
遠藤 雅樹

(有)デジタルリサーチ代表取締役。(株)矢野経済研究所でガスタービン、燃料電池などの産業分野で市場調査に従事したあと、2001年に燃料電池市場をフィールドにした市場調査会社デジタルリサーチを設立して代表取締役に就任。主な仕事として「燃料電池新聞」(2004~2016年)、「週刊燃料電池 Fuel Cell Weekly」(2009年~)、「中国燃料電池週報」(2019年~)、「燃料電池年鑑(Ⅰ)日本市場編、(Ⅱ)海外市場編」(2014年)、「定置用燃料電池の現状と将来展望(Ⅰ)家庭用燃料電池、(Ⅱ)分散電源・コージェネ、(Ⅲ)Power to Gas」(2016年)、「Transportation燃料電池の現状と将来展望」(2018年)、「中国の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2019年)、「世界の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2020年近刊)などの調査レポート、有料ニュースレターを発刊している。2019年から中国の水素・燃料電池の現状調査を開始、上海、北京、仏山、如皋などに足を運んでいる。早稲田大学文学部仏文科卒。

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