実は気候変動以上に深刻な生物多様性の保全 注目が集まるTNFDとは? | EnergyShift

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実は気候変動以上に深刻な生物多様性の保全 注目が集まるTNFDとは?

実は気候変動以上に深刻な生物多様性の保全 注目が集まるTNFDとは?

最近になって、生物多様性に関する関心が高まっている。理由の1つは、UNDP(国連開発計画)などによってTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足したことがあげられる。これからは、企業は気候変動対策同様に、生物多様性保全の取組みに関する情報開示が求められる。そしてもう1つが、10月11日からCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)が開催されたことだ。そのの最重要課題は、2050年に向けた新たな生物多様性の国際的枠組みの合意である。

実は気候変動以上に深刻な生物多様性の保全

1992年の地球サミットを契機としてできた条約の1つは気候変動枠組み条約であり、そしてもう1つが生物多様性条約である。いずれも地球規模の深刻な環境問題に関する条約だ。しかしこれまで、生物多様性条約は気候変動枠組み条約ほどは注目されてこなかった。締約国会議も、およそ2年に1回のペースであり、環境問題としての深刻さも気候変動問題ほど強く感じる機会が少ないということもあるだろう。さらに、経済的評価が難しいという側面もあるだろう。

とはいえ、生物多様性は気候変動問題以上に危機的な状態であるという評価もある。というのも、自然状態と比較して、1,000倍~1万倍もの速度で生物が絶滅しているともいわれている。これは、恐竜の絶滅に代表される、地質時代の生物絶滅のスピードに匹敵するという。

こうした状況から脱却するために、生態系の保全などを目指す国際的な枠組みが、生物多様性条約ということだ。とはいえ、それだけでは問題の深刻さや保全するメリットが見えにくい。その点でいえば、この条約においては、生態系の保全だけではなく、「生物多様性の持続可能な利用」、および、「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ公平な利用」という、経済につながることがイメージしやすい2つの目的も含まれている。

生物多様性の持続可能な利用というのは、比較的身近なものだ。例えば、私たちが日常食べている魚介類のほとんどは、天然資源である。あるいは、農業において、作物の受粉を媒介しているのも、自然の中にいる昆虫などである。また、レクリエーションや観光の資源としても、生態系が利用されている。

遺伝資源については、少し解説が必要だろう。自然の生態系には、多様な生物が生息しているが、その生物種の中には、経済的価値が大きい遺伝子を持つ生物がいる可能性がある。

例えば、ある特定の地域にだけ住むキノコから抗がん剤となる物質が発見されたとしよう。この物質がもたらす利益は、発見した製薬会社のものであるだけではなく、地域に住む人々のものでもあるということだ。多様な生物がいるから、多様な遺伝資源がある、という論理を通じて、生物多様性の経済的価値の一部を示しているということもいえるだろう。

また、生物多様性条約の下で採択された2つの議定書(カルタヘナ議定書と名古屋議定書)がいずれも遺伝資源に関連したものだということが、この条約において、経済的な側面が結果として重視されてしまっていることを示しているともいえる。

コロナ危機の中で開催されたCOP15

今回のCOP15は、本来であれば2020年に中国の昆明で開催されるはずだった。しかし、コロナ危機の影響により、1年先送りされた上、10月11日から15日にかけて開催された部分は会議の前半のみで、しかもオンラインによる開催となる。その後、2022年1月にスイスのジュネーブで補助機関会合を開催した上で、4月28日から5月8日まで、中国の昆明で後半の会議が開催される予定だ。

コロナ危機の影響で開催が延期されたCOP15だが、そもそもコロナ危機そのものが、生物多様性が喪失された結果だともいわれている。生態系が破壊され、野生生物と人間の接点が拡大することで、新たなウイルスが人間に感染し、パンデミックを引き起こす可能性があることは、以前から指摘されてきた。その意味では、今回のCOPは生物多様性の破壊がもたらした危機の中で開催されたものだといっていいだろう。

実際に、2021年5月に開催された補助機関会合や8月に開催された準備会合では、コロナによって亡くなった多くの方に対する追悼から会議が開始されている。

達成されなかった愛知ターゲットをバージョンアップ

COP15の最重要の議題は、2050年の持続的な生態系との共生に向けた、「2020年以降のグローバル生物多様性フレームワーク(GBF)」の合意だ。

2010年に愛知県で開催されたCOP10では、2020年までの生物多様性戦略とそれを実現する目標としての「愛知ターゲット」が採択された。しかし、2020年の段階で、20項目ある愛知ターゲットの達成がどうだったかといえば、何1つ達成できなかったという惨憺たる結果だった。

これを受けて、では2050年の目標達成のための、2030年までの枠組みはどうすればいいのか、ということが今回の課題となる。すでに素案は発表されているが、下の表のように、「生物多様性への脅威の削減」「持続可能な利用と利益配分を通じて人々のニーズを満たすこと」「実施と主流化のためのツール」の3つの分野、21項目が示されている。とはいえ、具体的な行動が示される一方、数値までは十分に示されているわけではない。

1.生物多様性への脅威の軽減
目標1世界のすべての陸地と海域が、利用の変化に対応し、原生地域を維持する。
目標2劣化した淡水、海洋、陸域の生態系の少なくとも20%を回復させる。
目標3陸地と海域の少なくとも30%が保全される。
目標4種の回復と保全、および野生動物と家畜の遺伝的多様性の保全、および、人間と野生動物の衝突の回避・削減。
目標5野生種の捕獲、取引、利用にあたって、持続可能であることを確保する。
目標6外来種の侵入・定着率を50%以上防止・削減する。侵略的外来種を制御・根絶してその影響を排除・軽減する。
目標7あらゆる発生源からの汚染を、生物多様性や生態系の機能、人間の健康に害を及ぼさないレベルまで削減する。殺虫剤を少なくとも3分の2に減らし、プラスチック廃棄物の排出をなくす。
目標8気候変動が生物多様性に与える影響を最小化する。少なくとも年間10GtCO2e以上のCO2削減に貢献する。
2.持続可能な利用と利益配分による人々のニーズの充足
目標9陸上、淡水、海洋の野生種の持続可能な管理と保護を通じて、食料、医薬品、生活などの利益を確保する。
目標10農業、養殖業、林業のすべての分野で、持続可能な管理を行う。
目標11大気汚染、水質汚染、災害からの保護により、自然の貢献を維持・強化する。
目標12都市部などにおける人間の健康と福祉のために、緑と青の空間の面積、アクセス、利益を増やす。
目標13遺伝資源へのアクセスを容易にし、遺伝資源および関連する伝統的知識の利用から生じる利益の公平・公正を確保するための措置を、すべての国で実施する。
3.実施と主流化のためのツールとソリューション
目標14生物多様性の価値を、政策、規制、計画、開発プロセスに統合する。貧困削減戦略や環境影響評価などに生物多様性を組み込む。資金の流れを生物多様性に沿ったものにする。
目標15すべての企業が、生物多様性への依存度と影響を評価、報告し、マイナスの影響の削減とプラスの影響を増加させる。生物多様性関連のリスクを減らし、サプライチェーンから廃棄にいたるまでを持続可能なものにする。
目標16人々が文化的な傾向を配慮し、責任ある選択をするための情報などにアクセスできるようにする。食品廃棄物などの過剰消費を少なくとも半減する。
目標17生物多様性と人間の健康に対するバイオテクノロジーの潜在的な悪影響を防止、管理、制御するための対策をすべての国で実施する。
目標18生物多様性に有害な補助金などのインセンティブを、少なくとも年間5,000億ドルを削減する。また、経済的・規制的インセンティブが生物多様性にとってプラスまたは中立であることを保証する。
目標19財源を少なくとも年間2,000億ドルに増やす。途上国への資金を年間100億ドル以上増加させる。目標達成に向けて、キャパシティビルディング、技術移転、科学協力を強化する。
目標20生物多様性の効果的な管理のための意思決定に、先住民の伝統的知識、革新、慣習を含む関連知識が役立つようにする。
目標21生物多様性に関する意思決定に、先住民や地域社会、女性、少女、若者が公平かつ効果的に参加できるようにする。先住民の土地・領土・資源に関する権利を尊重する。

例えば、「陸域/海域重要地域を中心に30%を保護」という内容がある。陸と海の30%は「30×30」として、合意されているものであるにもかかわらず、愛知ターゲットでは「陸域17%、海域10%の保護」が達成されなかったことを引き合いに出し、残り8年で可能なのかと疑問を呈する意見もある。

農薬の利用の削減に対しても、数値目標が争点となる。日本は比較的多くの農薬が使われているが、その使用が制限されるということだ。

有害な補助金の削減もやり玉に挙がっている。自然を保護するための資金は、環境汚染を引き起こす産業への助成金の金額よりもはるかに少ないにもかかわらず、である。

さらに、目標を達成するための資金もまた、重要な争点だ。

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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