名古屋議定書が、遺伝資源の公平な配分を定めた議定書として効力を持っているにもかかわらず、それで課題が解決されたわけではない。
今回、議題としてあがっているのが、「デジタル配列情報(DSI)」に関するものだ。遺伝子のもととなる物質であるDNAは、4種類の塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4つ)によって遺伝情報を記録している。すなわち、遺伝資源は、DNAの塩基の配列情報に還元されうる。この情報に関する権利全体や、アクセスのあり方について、取り決めるということだ。
そもそも、豊かな自然環境を持つ途上国にとって、生態系における生物の遺伝資源は、重要な国内資源であるといえる。そうした資源が、先進国によって利用され、自国に何の利益ももたらさないということが起こり得るということは、鉱物資源など他の天然資源の場合と同じロジックで考えることができる。生物本体から切り離されたDNAの情報について、どのように扱うかは、こうした国々にとって重要な問題なのだ。
2021年6月に、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足した。今後、枠組み作りなどが進められ、2023年以降、その枠組みに基づく形で、機関投資家から生物多様性に対する取組みの情報開示を企業は求められることになる。気候変動問題と同様に、企業は生物多様性の保全にも取り組む必要が生じるということだ。
気候変動ほど明確な経済的影響を示すことが難しいのが、生物多様性だが、遺伝資源については、その一端として理解することができる。さらに、漁業や農業、観光への経済的価値もより明確に示されていくことになるだろう。そうした価値の喪失は、やはり投資家にとって受け入れがたいものとなっていく。
COP15では、GBFに関する議論が中心となっていく。今後10年間の生物多様性保全の戦略をまとめるということである。複雑な内容であり、合意は簡単ではない。しかし、気候変動枠組み条約におけるパリ協定の合意や各国の削減目標の設定にあたって、金融セクターが大きな存在感を示したように、今後は生物多様性条約においても、同様の存在感が示されていくのではないだろうか。また、WWFなど環境NGOは、そうした方向に進むことを期待している。
生物多様性は、単独で存在している地球環境問題ではない。生態系の保全は温室効果ガスの増減にも関係するし、また気候変動は生態系を破壊する大きな要因となる。何より、生物多様性が失われた地球を次世代に残していいのか、という問題がある。
気候変動問題と同様に、生物多様性についても、真摯に取り組む必要があることは変わらない。
また、今回のCOP15で採択された愛知目標の後継となる「昆明宣言」は「生物多様性を回復の道筋に乗せることが今後10年の重要課題」としており、今後どのように各国が対応していくのか注目を集めている。
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