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世界で広がるダイベストメント 化石燃料からの投資撤退が日本に及ぼす影響とは

2022年01月31日

欧米で加速するダイベストメント

石炭ダイベストメントの事例としては、2019年に、世界有数の年金基金であるノルウェー公的年金基金(GPFG)が保有する石炭関連株式をすべて売却する方針を、ノルウェー議会が正式に承認。財務省の報告に基づく議会での審議などを踏まえ、時間をかけて売却し、一方で再生可能エネルギーに注力している企業の株は残している。

世界銀行グループは2019年から石油・ガスの上流事業への投融資を停止、欧州投資銀行(EIB)は2021年の終わりから発電も含む石油・ガス関連事業への新規融資を停止している。

オランダの大手年金基金ABPも2020年には運用ポートフォリオ全体のCO2排出量を2025年までに2015年比で4割削減する目標を打ち出し、石炭関連の投資縮小などを表明していた。2021年10月にはついに化石燃料に関連する企業への投資をやめると発表。売却は2023年1~3月期までに大半を終え、総額150億ユーロ(約2兆円)を超す見込みで、温暖化ガスを多く出す企業からの包括的な「投資撤退」としては大規模だという。

また、米欧の年金基金が石炭や石油など化石燃料から一定の売り上げを得る企業の投資から撤退している。年金の運用利回りも低下するとの考えが広がり、投資対象から外す方針を示し、企業に変革を促す狙いがある。

米ニューヨーク市は2021年12月、市が管理する3つの退職年金で化石燃料企業の証券を合計30億ドル売却すると発表した。2022年3月までに再生可能エネルギーや環境に配慮した不動産などに資金を移し、2040年に年金の運用資産全体の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする方針だ。

米ボストン市でも同年12月、2025年末までに、同市のファンドで化石燃料事業へのダイベストメントを義務付け、化石燃料事業収益で15%以上を稼ぐ企業へ公的資金を投じることを禁止した。カナダのケベック州貯蓄投資公庫も化石燃料から投資撤退し、再生エネなどへの投資を増やす方針を出した。

では、日本におけるダイベストメントの動きをみてみよう。

遅れをとる日本、なぜ? 国内ダイベストメントの現状

日本においても、海外同様の対応が徐々に求められつつある。国内では日本生命が2017年に国連責任投資原則へ署名し、2018年には国内金融機関として初めて国内外石炭火力発電プロジェクトへの融資停止を打ち出した。第一生命も同年、海外の石炭火力発電向けの新規プロジェクトファイナンスを実施しないことを決定。運用ポートフォリオの脱炭素を目指す国際的なイニシアチブに、国内機関投資家として初めて加盟した。

一方、地政学的な要因から、化石燃料が現在主要なエネルギー源である日本においては、欧米と比較し、進んでいないのが現状だ。

国際環境団体「350.org」が2021年2月に公開した石炭産業に投融資する世界の金融機関・投資家に関する最新の調査結果によると、トップ3は前回の調査に続き2回連続で日本の金融機関によって占められており、第1位はみずほフィナンシャルグループ(みずほFG、約222億米ドル:約2兆3,355億円)、第2位は三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ、約212億米ドル:約2兆2,282億円)、第3位は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約179億米ドル:約1兆8,825億円)となっている。

国別では、過去2年間に日本の金融機関は計約757億米ドル(約7兆9,544億円)の融資を石炭産業に投じており、世界第1位となっている。第2位は米国(約676億米ドル)、第3位は英国(約218億米ドル)であり、これら3ヶ国で「脱石炭リスト」掲載企業に対する融資の52%を占めている。

石炭火力発電所向けの融資をめぐったダイベストメントにおいては、日本の金融機関は消極的との批判を受け、国内の大手金融グループではこれまでよりも踏み込んだ対応を取る動きが相次いでいる。三井住友は、石炭火力発電所向けの融資の方針を厳格化し、新設事業のみならず、既存の設備を拡張する場合でも融資しない方針に改めた。三菱UFJは一部の例外を除いて融資は行わないことにしたほか、みずほも、一部の例外を除きすでに計画が決まっている石炭火力発電所についても、融資は行わない方針に改めた。

ただし、進行中の計画など複数の例外が存在するほか、石炭火力に関わる企業への資金提供に制限が設けられていないといった問題点もある。石炭火力を巡る問題は金融機関が直面する課題の象徴となりつつある。

ダイベストメントによる日本への影響と課題

気候変動問題への関心が高まっている中、脱炭素化に向けたダイベストメントは、もはや社会的・経済的に責任ある投資判断において欠かすことのできない方針となりつつある。国際エネルギー機関(IEA)の分析では、世界の気温上昇幅を1.5度以内にするには「21年時点で開発許可されたもの以外のすべての石油・ガス開発を停止する」必要があるという。世界の現状と今後の動向を鑑みると、石炭への投資は、投資家のダイベストメントや企業の資産売却も含め、縮小傾向にあるのは間違いない。また、石油は、石油化学産業に需要は残るものの、CO2排出量も多く次のダイベストメントの対象とも言われている。

同時に、ダイベストメントや新規融資の停止を通じて、中長期的に株価や資金調達に影響を受ける企業がでてくるという懸念もある。企業は気候変動リスクを見極め、脱炭素社会への移行を見据えたアクションプランを事業計画に組み込み、早期に戦略の検討を開始することが望まれている。

TCFD提言に賛同した企業の中でも、将来的な気候変動リスクや機会について定量的なシナリオ分析を実施し、経営計画に組み込んでいる企業はまだまだ少ない。

今後、金融機関は投融資先企業が脱炭素社会に向けた経営変革を促す観点で情報開示が活かされているかどうかも評価するようになるであろう。世界的にESGを意識した経営が強く求められる中、企業はESGへの対応によって資金調達を多様化し、新たなファイナンスの道を開拓していくことが求められる。

 

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東條 英里
東條 英里

2021年8月よりEnergyShift編集部にジョイン。趣味はラジオを聴くこと、美食巡り。早起きは得意な方で朝の運動が日課。エネルギー業界について日々勉強中。

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