2021年4月22日から23日にかけて、気候変動サミットが開催され、日本は2030年の温室効果ガスの削減目標について、これまでの2013年度比26%削減から、46%削減へと大きく上積みした。とはいえ、これは欧米諸国も同様。そして日本に問われるのは、いかにして46%削減を現実のものとし、削減目標をより野心的なものにしていくのか、ということだ。350.org Japanの横山隆美氏が解説する。
2021年4月22日から2日間、バイデン大統領が呼びかけた気候変動サミットが開催されました。物事、結果が全てという面があるので、サミット後にどのような変化が起こるのかが重要ですが、このサミットにはそれなりに大きな意味があったと思います。
まず、世界第2位の温室効果ガス排出国の米国が(1位は中国ですが、2018年の一人当たりの排出量は中国が35位、米国は10位。因みに日本は23位です)、トランプ大統領が離脱したパリ協定に復帰して気候変動対策をリードしていることは、今後対策をスピードアップするための大きな原動力となります。
次に、40の国と地域が参加したこと。参加しないと悪者扱いをされるのではないかという圧力?もあり、オンラインだからどこかの都市に集まることに比べ、スケジュールしやすかったとは思いますが、そうであったとしても、少なくとも各国、前向きな姿勢があったと思います。
昨年だけを見ても、中国やインドの洪水、オーストラリアやカリフォルニアの大規模森林火災、グリーンランドの氷床の急速な融解など、科学者が長年警告を発していたリスクが顕在化しています。そのような状況で、最近「人類を含む生物の生存に対する脅威」という表現が散見されるまでになったことからも、気候変動に対する問題意識が高まっているとも考えられます。
中でも、経済や安全保障、人権などの面では米国と対立傾向にあるにもかかわらず、中国やロシアが参加したのは、気候危機が喫緊の課題であり、解決には国際協力が必要だという認識が共有されているものと思います。
実際、日本をはじめ温室効果ガス排出削減目標(NDC)の引き上げや対策の強化を発表した国が続き、サミットはそれなりの成果を出して終わりました。
気候変動サミットの様子
サミットで日本政府は、それまで2030年に2013年比で26%だったNDCを46%に引き上げると発表しました。引き上げはもちろん歓迎ですが、当団体350.org Japanや他のNGOが即座にプレス・リリースで表明したように、国際的に見るとそれでも充分なレベルとは言えません。というのも、この比率の計算の基準年が国によって異なるからです。
日本の46%をEUの55%や英国の68%削減の基準年になっている1990年比で計算し直すと約40%に目減りし、差がさらに広がります。教科書を100ページ読んでくる宿題で、既に50ページ読んでいた学生がさらに25ページ(50%)読み進んで25ページ残っているのと、20ページしか読んでおらず残りの80ページの50%を慌てて読んで40ページ残っている学生を、直近では同じ50%の進捗なので同評価にしようというようなものです。データをよく見せようとしても追いつくことはできません。
当団体や232の賛同団体(4月28日現在)で推進している「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンでは2010年比で50%の削減を要求しています。また、学生の団体であるFridays for Futureの有志が22日に実行したアクションでは、最近Climate Action Trackerという研究機関が試算した、日本が必要とされる2013年比62%削減を求めていました。しかし、残念ながらいずれも満たされない結果となっています。
同じように先進国である欧州各国と日本で、気候危機対策に関して違いが大きい背景に何があるのか、思いつくことを挙げてみます。
第一は科学と政治の距離です。これはコロナ対策での首脳の発言を見ていても感じますが、欧州では政治家が科学者の意見をよく聴いているという印象があります。メルケル首相については元々科学者で気候変動について深い理解があり、石炭の産出国であるにもかかわらず脱石炭を強力に推し進めています。
第二は、気候危機に対する危機感です。バイデン政権で気候担当大統領特別特使(このような役職を設置すること自体が危機感の証左です)に任命されたケリー氏は、「2050年までにネットゼロを達成しても、破滅的な温暖化を避けることはできない。大気から二酸化炭素(CO2)を捕集して濃度をさらに低下させる方法、ネガティブ・エミッションが必要だ」と語っています。温暖化はCO2などの温室効果ガスの累積濃度に起因していること、CO2が大気中に100年滞留することを考えれば、中途半端な削減では気候危機は解決できないと分かるはずです。
パリ協定では世界の平均気温の上昇を、産業革命以前から1.5℃に抑えることを目標にしています。しかし、1.5℃に抑えられたとしてもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、サンゴの70%~90%が死滅する可能性があります。
私たちが真に追求すべきは気温のゼロ上昇ですが、累積してしまった温室効果ガスがあるために、1.5℃までの上昇は容認せざるを得ないということです。
次に感じることは、目標の立て方の違いです。欧州では脱炭素のあるべき持続可能な社会を視野において、そこから逆算(バック・キャスティング)して目標を設定しています。それに対し日本では、現実をもとにした積み上げ方式(フォワード・キャスティング)で頑張ればできる目標を設定する傾向があります。
日本の役所では、欧米は見栄えが良い高い目標でアピールしようとするが、日本の目標の方が実現可能性が高いという評価をします。しかし、大きな目標は大きな努力を要求します。100点を目指す生徒は、100点は取れなくても90点を取れる可能性があります。しかし、我が身を振り返ってみても、平均点の70点を目標にしていたら90点は取れません。イチロー選手が大リーガーで活躍できたのも、大きな目標を掲げ、それに向けた努力をしたからです。
菅首相が発表した温室効果ガスの46%削減をどうやって達成するか、その道筋は現在議論されているエネルギー基本計画に委ねられます。
検討している分科会の議論や報道を見ていると、どうやら電源の構成比率は原発20%と再生可能エネルギー30%の方向に向かっているようです。原発に関してはCO2を排出しない「非化石燃料」として復活の動きがあります。しかし、一旦事故があると被害は取り返しがつかないほど甚大なことは福島第一原発事故で経験済みですし、使用済み核燃料の処理方法がないことなどを考えれば、「非持続可能性燃料」と言えます。
また、再生可能エネルギー30%が、目標の上限になるリスクがあります。世界では、今は脱炭素と経済成長を両立できる第4次産業革命の時代だと言われています。太陽光や風力発電など既に実用化されこれから主流になる技術に投資するのではなく、いままでの産業に投資していては日本の国力の将来も危ぶまれます。
安定した気候のもとで安心して生活ができる持続可能な地球環境とともに、経済的にも豊かな社会を次世代に引き継ぐことが私たち現役世代の責任です。
このような思いから、エネルギー基本計画(案)のパブリック・コメントが公示されるときに、「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンでは、私たちの意見を政府に伝えたいと考えています。パブリック・コメントで計画案が簡単に修正されるわけではありませんが、諦めず市民の声を伝え続けることが大事だと考えています。
皆さんの声を伝えて、私たちと次世代の未来を守っていきましょう。
*EnergyShiftの「エネルギー基本計画」関連記事はこちら。「NDC(削減目標)」関連記事はこちら。
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