2021年11月前半、連日のように報道されたCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)だが、環境NPOはこの会議をどのようにとらえたのだろうか。平均気温上昇1.5℃未満に向けて、どのような合意がなされ、どのような課題が残されたのか、そして日本政府の対応は適切なものだったのか。環境NGO 350.org Japanの渡辺瑛莉氏が報告する。
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2021年11月6日、イギリス・グラスゴーで開催していたCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)にあわせて10万人の市民がストリートを埋め尽くしました。イギリスの市民グループ連合が呼びかけた世界同時アクションは、コロナ禍にも関わらず、イギリス全土で約100ヶ所、そして世界中では100ヶ国近くで開催、日本でも、若者グループのFridays For Future JapanがCOP現地にいるメンバーと中継しながら、新宿バスタ前でスタンディング・アクションを行ないました。
350.orgのショート動画
前日の5日には現地でFridays For Futureによるマーチが行われ、グレタさんはCOP26を「グローバルなグリーンウォッシング祭り」と酷評しました。最新の気候科学に基づき、1.5℃に気温上昇を抑えるための炭素予算(大気中に放出できるCO2の量)が底を尽きかけていること、つまりタイムリミットが迫っていること、そしてそうであるにも関わらず、世界中のリーダーたち(特に歴史的排出責任が大きい先進国のリーダーたち)が過去数十年の間にいかに行動を行わなかったか、こうしたことに対し、強い憤りを表明したのです。
それはとりもなおさず、気候危機をもたらした、化石燃料に立脚した今の社会システムやビジネスのあり方を、リーダーたちが根本から変えることを拒んできたためであり、そのことが気候危機を加速させてきたということです。
気候変動ストライキで演説するGreta Thunberg氏(2021年9月24日)
グレタさんや若者たちからすれば、この化石燃料への依存をいかに断ち切るか、というポイントがクリアにならない限り、今のリーダーたちの「コミットメント」や「目標」は美辞麗句を並べただけの「空約束」「グリーンウォッシュ」と映っても不思議ではありません。もちろん、若者たちや気候アクティビストばかりでなく、気候科学者、国連事務総長、そして今やIEA(国際エネルギー機関)でさえも化石燃料の拡大をやめ、大幅な削減の必要性を唱えています。
本稿では、特に「脱化石燃料」という視点からCOP26を振り返り、1.5℃目標を守るために、COP27に向けて残された宿題は何か、私たち市民は今後、政府や企業のリーダーたちの行動のどこに注目していくべきかについて見ていきたいと思います。
まず、現在世界は1.5℃目標にどれほど近づいているのか見ていきましょう。国際環境シンクタンクのクライメート・アクション・トラッカー(CAT)は、COP26までに発表された140ヶ国(世界排出量の90%をカバー)のネットゼロ目標が全て達成された場合、気温上昇を1.8℃に抑えられる可能性があると発表しました。
しかし、これは楽観的なシナリオであり、各国の現在の政策を評価すると気温上昇は2.7℃に、また2030年目標(NDC)が全て達成されても2.4℃の気温上昇になると発表しています。今回の成果文書でも「追求を決意」と確認された1.5℃目標からするとまだまだ不十分です。しかし、2015年のパリ協定採択前のCATの分析では各国の政策は3.6℃の気温上昇、各国が提出した目標を達成した場合2.7℃の気温上昇と分析していたことから比べると、前進していることは確かです。
とはいえ、現在の合意は、ネットゼロ宣言に整合的な目標を、2030年目標として落とし込み、明確な政策として実施する必要性を強調する形となりました。問題は1.5℃目標達成のためには、2050年ネットゼロ宣言だけでは到底不十分であり、2030年目標如何にかかっているとも言えます。
それでは、脱化石燃料に関連する主な動きを見ていきましょう。
・グラスゴー気候合意(Glasgow Climat Pact)
すでに多くの報道がなされていますが、「対策が講じられていない*1石炭火力の段階的削減」と「非効率な化石燃料補助金の段階的廃止」が成果文書に明記されました。最終段階で表現が弱められたものの、このように石炭火力や化石燃料が交渉文書に入ったのはCOP史上初めてであることは特筆すべきで、1.5℃を守るのに脱化石燃料を避けては通れないという切迫感の現れとも取れます。
なお、IMF(国際通貨基金)は2020年の世界の化石燃料補助金が5.9兆ドルであったと公表、これはIEAのレポートで述べられている、ネットゼロへの道筋のために2030年までに必要とする額を上回ります。憂慮すべきは、このうち化石燃料価格の低下などに充当されたのはほんのわずかで、大部分は大気汚染による人々の健康被害や温暖化による影響などに対して化石燃料企業が本来支払うべきだったということです。
つまりよく日本でも言われる「補助金があるから最終消費者が助かっている」というのは誤解であることがわかります*2。また、中国、アメリカ、ロシア、インド、日本の5ヶ国で補助金の3分の2を占めますが、まさにこれらの国は世界の排出上位5ヶ国です。化石燃料産業が毎分1,100万ドルの補助金を得ている状況はまさに「火に油を注ぐ」状態で、これを改革するのは必然の流れと言えます。2009年以来G20がコミットしながら進まなかった補助金改革のゆくえが注目されます。
*1: 後述するように、実質的にCCUSを伴わないことを指す。
*2: OECDとIEAも「エネルギー価格の高騰は、化石燃料補助金ではなく、クリーンエネルギーへの転換を加速する必要があることを強調」というリリースを発表し、「化石燃料補助金は、化石燃料の消費を促進するだけでなく、低所得世帯支援としては、的を絞った給付と比較して効果的でない」と述べている。
・石炭からクリーンな電力への移行に関する声明(Global Coal to Clean Power Transition Statement)
主要経済国は2030年代、世界全体は2040年代に、対策が講じられていない石炭火力発電を廃止することを盛り込んだ声明に、欧州を中心に46ヶ国・5地方政府などが署名しており(2021年11月21日時点)、このうちベトナム、インドネシア*3、韓国を含む23ヶ国が新たにこうしたイニシアティブに参加*4。後述するように、日本政府や企業・金融機関がベトナム、インドネシアを含むアジア地域で石炭火力発電所の新設を進めようとしていることからすればこれは特筆すべきと思います。一方、世界の石炭消費の75%を占めるとされる中国、インド、アメリカ、日本は参加していません。
*3: 条件付き
*4: ただし、初めてと言われるウクライナが11月21日時点で同HPに掲載がなかった。
・クリーンエネルギーへの移行に関する国際的公的支援に関する声明(Statement on International Public Support for the Clean Energy Transition)
対策が講じられていない化石燃料エネルギーセクターへの新規の直接的な国際公的支援を2022年末までに終わらせることを盛り込んだ声明には、イギリス、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどを含む22ヶ国と欧州投資銀行(EIB)などの金融機関も署名しています(2021年11月21日時点)。
声明では、公的支援の投入も一因となって、多くの地域で、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが、対策が講じられていない化石燃料エネルギーよりも安くなっていることが、人々のエネルギーの選択肢やアクセスを改善していること、また国際的な公的・民間資金がクリーンエネルギーへの移行にとって重要であること、さらに化石燃料エネルギー事業への投資が、座礁資産といった形で社会的経済的リスクをはらみ、政府の歳入、地域の雇用、納税者、電力消費者、人々の健康に悪影響を及ぼすことなどにも言及しています。
・脱石油・ガス国際同盟(The Beyond Oil and Gas Alliance:BOGA)
デンマークとコスタリカが主導する本同盟は、1.5℃目標達成のために、脱石油・ガスの機運を盛り上げることを企図し、コアメンバーは新規の石油・ガスの生産*5・探査の廃止、また自国における石油・ガス生産のパリ協定に整合的な廃止期限の設定へのコミットを、また準メンバーは、石油・ガス生産の削減に資する重要で具体的なステップをとること(例:補助金改革や海外向けの公的資金支援の廃止等)を求めており、フランス、アイルランド、スウェーデンなどがコアメンバーに、米カリフォルニア州、ニュージーランド、ポルトガルが準メンバーに名を連ねています。デンマークはEU内で最大の石油・ガス生産国の1つですが、新規の開発許認可を認めず、2050年までに石油・ガスの生産をやめることにコミットしています。
*5: ここで言う「石油・ガス生産」は上流での活動を指し、中流と下流は含まない。
以上に見てきた脱化石燃料のイニシアティブに日本は残念ながら1つも参加していません。では次に、日本は「脱化石燃料」の文脈で世界からどのように評価されているか見ていきましょう。
脱化石燃料の文脈での日本の評価は・・・次ページ
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