こちらも報道で多く取り上げられました。CAN(気候行動ネットワーク)が、気候交渉の足を引っ張った国に皮肉を込めて毎日送る化石賞。今回の日本の受賞の理由は岸田首相の「ゼロエミッション火力」の演説でした。岸田首相の「化石火力をアンモニアや水素などのゼロエミ火力に転換する」という発言に対して、「未成熟でコストの高いこれらの技術は化石燃料採掘に繋がっており、1.5℃目標の達成にはほとんど貢献しない」との理由からです。
気候ネットワークは「水素・アンモニア発電の課題」と題したレポートを公表しており、以下のような問題点をあげて、これらは1.5℃目標に整合しないと結論づけています。CCUSの実用化までの課題とそれまでの化石燃料からのCO2排出、2割程度のアンモニア・水素の混焼が可能になった場合でも化石燃料から大量のCO2が排出し*6、2030年までの削減にほぼ貢献しない、再エネが安くなる中でこれらの技術の組み合わせが高コストであることから座礁資産のリスクなど。
*6: 例えば、アンモニアを2割混焼しても、アンモニアの製造時に出るCO2を加味すると最終排出量は石炭火力100%の時と比べて4%減にしかならないという。
なお、様々な国際声明で言及されている「対策が講じられていない(unabated)」という文言を日本政府は拡大解釈し、アンモニアや水素の混焼技術などをここに含めようとの意図が見えますが、世界では「unabated」は「CCUS=炭素貯留・有効利用・回収なし」と捉えられています。11月に公表されたOECD輸出信用の新ルールでも、CCUSのみを「対策が講じられている」とみなし、将来それ以外のテクノロジーをここに含めたい場合は加盟国のコンセンサスを得る、と明記している点からも、CCUS以外は今のところ除外されていると言えます。
このように、日本の独自解釈は世界では通用しません。前述のCATは、日本のネットゼロ目標を「不十分(Poor)」と評価。特に2030年に19%石炭火力を使い続けることを「ゼロにすべき」と提言しています。
ここまで、COP26の脱化石燃料に関する動きを中心に見てきました。次に、日本が世界から動向を注視されている海外向けの石炭火力および化石燃料のプロジェクトについて触れたいと思います。
まず、JICA(国際協力機構)がODA(政府開発援助)で進めようとしているバングラデシュのマタバリ2およびインドネシアのインドラマユ石炭火力発電事業です。先のG7では「対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を年内に終了」ということで合意されましたが、日本政府は2案件を「既存案件」と位置付けて例外扱いしようとしているようです。
しかし、こうした解釈は国際的には理解を得られないでしょう。なお、インドラマユ事業については、ジャワ島の電力供給過剰を理由にインドネシア政府が計画の延期を発表、事業の妥当性が問われています。またマタバリ事業ではフェーズ1における環境影響評価や影響コミュニティ、生態系への負の影響が問題となっています。
次に、日本の大手銀行が関与する化石燃料事業です。国際NGOバンクトラックは、世界の大手民間銀行による環境社会影響を管理するイニシアティブ「エクエーター原則(赤道原則)」の遵守状況に関する新レポートを公表、その中で日本の三井住友、三菱UFJ、みずほの3メガバンクがそれぞれ同原則の下、パリ協定採択以降、最多件数の化石燃料プロジェクトへの融資を行ったと発表しました。また特に問題の大きいプロジェクトとして8つのケーススタディを取り上げ、その全てに邦銀が関与するという不名誉な状況が明らかになりました。
そのうちまだ融資締結に至っていない東アフリカ原油パイプライン(EACOP)は、完成すれば世界最長1,445kmのパイプラインとなり、原油による年間CO2排出量は推定3,300万t(大型の石炭火力発電所5.5基分に相当)、保護対象の野生生物の生息地2,000km2(大阪府よりも大きい面積)に悪影響をもたらし、5,300ha(東京都足立区とほぼ同じ面積)という広大な土地収用により8万6,000人が移転を余儀なくされるという環境社会影響のとりわけ大きい事業です。
三井住友銀行が事業者のアドバイザーとして関与していると言われており、#STOP EACOPキャンペーンは日本の3メガバンクも含めて世界の銀行団にEACOPへの関与を問う公開質問状を送付。そのうち、邦銀ではみずほのみ、問題解決がなされない限り、融資を行わないと回答したそうです。EACOPへの融資は銀行のパリ協定の目標と整合させるという数々のコミットメント(国連責任銀行原則、2050年ネットゼロ宣言など)とも矛盾すると言えます。
また、ここでは詳しく述べませんが、国内石炭火力も大きな問題となっています。
「脱化石燃料」のイニシアティブではありませんが、日本の金融機関も多数加盟しているため最後にこちらを取り上げます。COP26会期中、国連気候行動・ファイナンス特使のマーク・カーニー氏が主導する、ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero: GFANZ)が45ヶ国450機関(130兆ドルの資産に相当)に達し、2050年までに100兆ドルの資金がネットゼロに向けて投じられると発表。本同盟は、アセットオーナー、アセットマネージャー、銀行、保険会社など複数のネットゼロのイニシアティブを束ねたもので、国連のRace to Zeroの基準に沿って、2050年ネットゼロにコミットするものです。
しかし、どのイニシアティブも化石燃料事業の拡大に歯止めをかけられていないという点で、排出削減の実効性が伴わないとの批判が国際NGOから出ていました。これまで化石燃料事業に世界の大手銀行が莫大な資金を投じてきたことを鑑みれば、今後いかにこれらの金融機関が世界の脱化石燃料の流れを後押しできるかが問われています。
ここまで、「脱化石燃料」に着目して、COP26の成果を振り返ってきました。いくつかの新しいイニシアティブが脱石炭だけでなく、脱石油・ガスも含めて立ち上がってきたことはCOP史上初であり、ボランタリーな枠組みとはいえ、今後の気候行動の潮流として重要なシグナルと取れるでしょう。
では、最初の問い「COP26はグリーンウォッシュ祭りだったか?」の答えはどうなるでしょうか? 今のままでは残念ながらYesとなってしまうでしょう。それは、世界各国の2030年目標や脱石炭、化石燃料フェーズアウトなどの具体的な政策が不十分であるため、1.5℃目標を守れないこと、脱化石燃料のボランタリーな枠組みも、日本を含め化石燃料への依存度が高い国が入っていないこと、また脱石炭などを約束しながら新規の石炭火力を支援しようとしていることなどからです。
この他、重要な論点としては、先進国から途上国へ約束している資金の問題もあります。
しかし、今回決まった、各国はCOP27までに、2030年目標(NDC)を1.5℃目標に整合させるように引き上げて再提出する、ということが果たされれば、COP26がただのグリーンウォッシュ祭りだったとの汚名を晴らせるでしょう。また、金融機関などの自主的イニシアティブも1.5℃目標に整合的な脱化石燃料の道筋を後押しできれば、グリーンウォッシュと言われなくなります。
そこで、各国政府、また企業のリーダーたちに2030年やさらに直近の目標を引き上げてもらうには、市民からのプレッシャーが鍵を握ります。メディアの役割も重要でしょう。日本では市民やメディアが、政治や企業の行動をウォッチし、働きかけることが諸外国と比べて弱いことは周知の事実ですが、タイムリミットがある気候危機を前にしては、嘆いていてもいられません。
気づいた人から声を上げ、仲間を増やしていくことで、COP26で打ち出された様々なコミットメントを空約束にさせずに、実効性を伴うものにブラッシュアップさせていく確率が上っていきます。COP26の終わりは、次のステップの始まりに過ぎません。引き続き気候行動の引き上げを求めて力を合わせていきましょう。
ヘッダー写真:Stay Grounded, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
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