これからの地域エネルギー事業のヒント6
「ゼロカーボンシティ」を表明する地方自治体が増加している。政府の取り組みとは別に、自治体として積極的にパリ協定の目標達成を目指す世界の流れに参加していこうというものだ。具体的に、どのようにCO2排出を削減していくのか、という課題に対し、政府・環境省も支援に乗り出した。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が、地域でどのような展開をしていくべきかについて提案する。
日本で急速に拡がるゼロカーボンシティ
「2050年までにCO2排出実質ゼロ」を表明する自治体、いわゆる「ゼロカーボンシティ」が、2020年10月1日現在で157の自治体(22都道府県、85市、1特別区、39町、10村)にまで拡大している。
自治体の人口を合計すると約7,334万人 、GDPは約343兆円となり、我が国の総人口の半分超になる。報道によると、多発する気象災害に危機感を強めていることが背景にあるという。また、この仕掛けの推進役が小泉環境大臣であることもよく知られている。
「ゼロカーボンシティ」を名乗るには、「2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す」旨を首長自らもしくは自治体が表明すればよいことになっている。つまり首長や自治体の意気込みの表明であり、それに向けた計画策定や議会や市民の承認といった政策的な裏付けは、「現時点では」伴わなくてもよい。
自治体の再エネ導入を支援する新たな政策
そこで環境省は、「ゼロカーボンシティ」を宣言した自治体への支援として、2021年度当初予算案の概算要求で「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業(800百万円)」を計上。併せて、地域に根ざした地域再エネ事業を推進するために、「再エネの最大限導入の計画づくり及び地域人材の育成を通じた持続可能でレジリエントな地域社会実現支援事業(3,030百万円)」を計上した。
前者では、「ゼロカーボンシティ」を宣言した自治体がその実現を目指すために必要となる情報基盤整備として3点を打ち出した。
- 自治体の温暖化対策実行計画策定・実施等支援システムの整備や地域の温室効果ガスインベントリ(温室効果ガスの排出量・吸収量の実績を排出減・吸収源ごとに示したもの)の提供により、自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)を支援する
- 自治体向けの計画策定ガイドラインの提供によりゼロカーボンシティ実現に向けた計画策定の支援を行う。
- ゼロカーボンシティ実現のために必要となる地域における徹底した省エネと再エネの最大限の導入を促進するため、地域経済循環分析やEADAS(環境アセスメントデータベース)等を地元との合意形成ツールとして整備する。
後者では、自治体が地域に根ざした地域再エネ事業を推進して再エネを最大限導入するために、以下を行うとした。
- 地域再エネ導入を計画的・段階的に進める戦略策定の支援
- 官民連携で行う地域再エネ事業の実施・運営体制構築支援
- 地域再エネ事業の持続性向上のための地域人材育成(ネットワーク構築、相互学習等)
「ゼロカーボンシティ」を宣言したものの、あるいは地域再エネの導入を図りたいものの、計画策定や「地域新電力」等の事業スキーム構築や運営には専門性が求められるため、自治体によってはハードルになっていた。この2つの新規施策は自治体への「能力支援」であり、究極の狙いは、どちらも「再エネの最大限導入」にあると言えよう。
重要なものは「自治体への能力支援」
本コラムでは、一貫して「土着型プレイヤー」たる基礎自治体や地場のガス事業者が、「ここで、どんな再エネが導入でき、どんな地域エネルギー事業ができるか」を考えるヒントを考察してきた。この趣旨からすると、今回の新規政策は前向きな自治体にとって「朗報」となろう。
ただ、気になる点がないわけではない。
まずは、前者の「ゼロカーボンシティ」に関して、自治体が「2050年までを見通した行動計画を策定することの難しさ」である。
「ゼロカーボンシティ」が今、どんな取組をしているかは環境省のHPに掲載されているが、これをみると、東京都、京都市、横浜市など先進的な自治体でも、「徹底した省エネ」と「再エネの最大限導入」を軸にした概ね2030年までの対策が中心で、2050年に向けた行動計画が描き切れておらず、今後、明らかにしていくとの表明にとどまっている。
考えてみれば、これは当たり前のことであり、長期的な環境・エネルギー政策には「脱炭素化に資する今後の技術革新次第」といった不確実性があり、国ですら2050年に向けた計画までは具体的に描き切れていないからである。ゆえに、より小規模な自治体における行動計画も、「2030年までは具体的に、2050年に向けてはビジョン的に」が、現実の姿だろう。
ゼロカーボンシティ、地域再エネ事業への要望
せっかく「ゼロカーボンシティ」をフックにして温暖化対策を推進するならば、以下の2点に配慮してほしい。
1点目は、「2050年までの行程にはかなりの不確実性があることを、自治体関係者はもとより地域住民にも理解を促す行動をとる」ことである。
足元で行う省エネや再エネ対策だけでは、あるいは電力だけゼロエミッション化するだけでは、「2050年ネットゼロ」にはつながらないことや、「なぜ(グロスではなく)ネットゼロとしているのか」の意味もしっかり勉強してもらう等により、「地域レベルで環境・エネルギーリテラシーを高める」ことを望みたい。なぜなら、先進国をみればわかるように、「2050年ネットゼロ」に至る過程には、石炭火力問題に象徴される複雑な利害関係調整が当該地域でも待ち受けているからである。
2点目は、こうした啓発活動を通じて、「ゼロカーボンシティ宣言」を首長の個人的表明から「地域住民ぐるみで合意した宣言」へと高めることである。少なくとも首長は次の選挙では宣言を公約化して、住民の信任を得てほしい。
後者の「地域再エネ事業の推進支援」にも心配な点がないわけではない。現段階では、より具体的な支援メニューが不明なので断定はできないが、「(再エネの賦存を始め)どういうポテンシャルを持った自治体に、誰が、何を、どのように、支援するか」を実効あるものにすることはそれほど簡単ではない(簡単ではないから、本コラムでここまで考察してきた)。
これは「知見の発掘と能力への支援」であり、金銭的支援で解決する問題ではないからである。とはいえ、この案件から筆者の懸念を払拭する素晴らしいアイデアが出てくるかもしれず、大いに期待している。
連載:地域密着型エネルギー事業者の地域エネルギー論