これからの地域エネルギー事業のヒント5
地域における再生可能エネルギーの資源利用は、地域活性化などの点からも期待されているが、その一方で、都市部やその近郊のように、十分な資源が見込めない地域も少なくない。そうした場所であっても、一定量の再エネを開発・確保していくことは必要だろう。「都市型再エネ」として、どのような開発が考えられるのか、エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が提案する。
日本の再エネ適地は多くない
地域エネルギー事業は、必ずしも地域に賦存(ふぞん)する再生可能エネルギーを用いた「地産地消型」でなくてもよいが、再エネ主力電源化の政策下にある現在、再エネの利用は実質的に外せない要件である。
しかし、日本の地域を基礎自治体単位にみると、風力、木質バイオマス、小水力での事業化が可能な自然環境を有する地域は限られており、地域エネルギー事業の供給の核となれる再エネが量的に担保できる地域は多くない。
再エネの中でも太陽光発電は立地制約性が比較的低く、多くの地域(自治体)も普及を歓迎しているが、メガソーラーの「秩序なき」設置による環境保全上・防災上の懸念もあり、「諸手を挙げて促進」とはいかない状況にある。ましてや、メガソーラー用地にも乏しい首都圏近郊のベッドタウンや田園都市では、自然由来の再エネを軸にした地域エネルギー事業を考えにくい。筆者が住む千葉県柏市でも自然由来の再エネは全く期待できない。
「都市型再エネ」としての太陽光発電
では、このような地域では地域経済循環効果や温暖化対策効果が期待できるエネルギー事業はできないのだろうか。頼みの綱は、開発行為を要さない、公的施設や住宅、事業所、工場などの建築物に搭載する太陽光発電ではなかろうか。
ひとつひとつは小ぶりな発電所だが、分散型・需給一体型の再エネ利用形態であり、地産地消型の地域エネルギー事業には大いに馴染む。
太陽光発電コストはまだ高いといわれているが、それでも低下傾向にあり、高効率化やフィルム化といった今後の技術開発次第ではより多様な場所に、より多様な形で設置できる可能性もある。清掃工場のゴミ発電と並んで、いや、それを上回る「都市型再エネ」になれるポテンシャルがある。
現に太陽光発電ビジネスは、FITによる買取価格の低下や卒FIT太陽光の登場を背景に、太陽光の自家消費を促進する形で活況を帯び始めている。
太陽光発電設備の第三者所有モデル(TPOモデル)と電力販売契約(PPA)を組み合わせたビジネスモデル
その代表格が、図のような「太陽光発電設備の第三者所有モデル(TPOモデル)と電力販売契約(PPA)を組み合わせたビジネスモデル」である。これはほとんどが民間ベースで「点の事業」として行われているが、地域(自治体)レベルでの「面の事業」としても応用可能と考える。
つまり公的施設に加えて、地域の住宅・事業所・工場の屋根を利用した太陽光発電を推奨し、地産地消電源化するのである。
このモデルは単純な余剰太陽光発電の買取方式より多くの資本力や事業運営能力を必要とするが、自治体がこうした資源・能力を持つ民間事業者と連携して自治体新電力を設立することで可能になる。
自治体新電力ではないが、公共施設の電力調達コスト削減や低炭素型まちづくりの実現、エネルギーの地産地消等を求めて静岡県島田市が行った公募プロポーザルに応募・採択された「静岡ガスグループ(島田ガスJV)」の提案は、市の17施設に太陽光発電設備を設置し自家消費電力を供給販売する「TPO&PPAモデル」となっている。
自治体新電力が地域内の卒FIT太陽光発電を買い取る
次に考えられるのが、自治体新電力(地域新電力)が、地域内の卒FIT太陽光発電や自家使用余剰太陽光発電を買い取り地産地消電源とすることであり、これはすでに、北九州市(北九州パワー)や浜松市(浜松新電力)、群馬県太田市(おおた電力)、宮城県東松島市(東松島みらいとし機構)等の自治体新電力で行われている。
また、卒FIT太陽光を買い取りではなく「寄付」の形で受け付け、地産地消電源化を図るビジネスモデルもあり、いくつかの地域新電力が参画している。
トラストバンク
「ふるさとエネルギーチョイス えねちょ」
さらに、自治体新電力ではないが、東京都や埼玉県では自治体がコーディネートする形で一般電力会社が卒FIT太陽光を地元住民から買い取り自治体施設や地域内企業に提供することで、卒FIT太陽光の地産地消電源化を図る取り組みも登場している.
東京都&出光グリーンパワー
「とちょう電力プラン」
「埼玉県&東電EP:彩の国ふるさとでんき」
このように、再エネ主力電源化に伴い再エネが持つ非化石環境価値が高まっていることを背景に、自治体や地域事業者が「エネルギーの地産地消」に関わる方法が、(新電力方式以外でも)出てきている。
最小限の再エネ調達から事業を開始した後、市井にある太陽光発電を順次調達して再エネ電源の厚みを増している新電力も多くある。ゆえに、何が何でも「地域密着型の新電力で」「最初から再エネ電源だけで」とは考えず、地域の状況に合わせて、柔軟に実現可能な方法を計画することが必要と考える。
「田園都市型再エネ」としての太陽光発電
ここまで「都市型再エネ」としての太陽光発電を地域エネルギー事業の地産地消電源とする方策について述べてきたが、都市の中でも田園都市と呼ぶべき地域においては、耕作放棄地等のスペースを活用した太陽光発電(自主電源開発)あるいは「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とのコラボ」により、再エネ電源を確保する方策もある。
周知のとおり、前者(耕作放棄地での太陽光発電事業)はすでに民間ベースで多数実施されているが、これを自治体新電力(地域新電力)の電源開発事業と位置付けて実施することで、ともに地域課題である「エネルギーの地産地消」と「耕作放棄地問題」双方の解決につなげるという発想である。
後者(ソーラーシェアリングとのコラボ)も同様の発想から考えられる。営農型太陽光発電を営みたい農業者と地域エネルギー事業者がコラボして、農業者は農業収入と発電用地利用料を、地域エネルギー事業者は再エネ電源を得るビジネスモデルである。
むろん、これも民間ベースでできるのだが、自治体新電力がこれを行うことによって、たとえば「農業者雇用の創出支援」や「農業を希望する移住者支援」など、地域エネルギー事業で得られる事業効果以外の地方創生支援効果も期待できる。農業用地問題は利害関係調整が難しいという課題も、地域ぐるみの官民連携で事業化することにより軽減されるのではなかろうか。
これらはアイデアベースにすぎないが、「わが地域は再エネがないから、エネルギーの地産地消事業などできない」と諦めずにあらゆる可能性を追求するという点において、検討の選択肢にはなりうる。
地域の持続可能性のためにエネルギーを活用したいと考える自治体や地元事業者にとっては、取っ掛かりとなる再エネ電源調達の選択肢は増えている。
ただそれに気づくためには地域エネルギーに関するそれなりの感度が必要となる。ゆえに前回述べたように、検討したい自治体や事業者に対する「立ち上がり支援」は不可欠な施策だといえよう。
参照
連載:地域密着型エネルギー事業者の地域エネルギー論