2020年3月30日、日本政府は2030年に向けた温室効果ガス削減目標を含む国別目標、NDC(Nationally Determined Contributions)を取りまとめ、環境省が発表した。今年11月に英グラスゴーで開催予定のCOP26への提出文書だ。
日本の発表は実質ゼロ回答
この発表で示された日本の削減目標について、国の内外から批判が高まっている。
それもそのはずだ。この発表では、日本政府は今の目標を特に変えることはない。実質のゼロ回答だからだ。
今回の『「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について』のリリースを見ると、下記の3つがポイントとある。
1) 現在の中期目標(2030年度26%削減(2013年度比))を確実に達成するとともに、その水準にとどまることなく中長期の両面で更なる削減努力を追求する。行動を強化する観点から、平成28年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」の見直しに着手し、その見直し後、追加情報を、国連気候変動枠組条約事務局へ提出する予定。
2) その後の新たな削減目標の検討は、エネルギーミックスと整合的に、温室効果ガス全体に関する対策・施策を積み上げ、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を目指す。これは次回のパリ協定上の5年ごとの提出期限を待つことなく実施する。
3) 長期目標に関しては、昨年6月に決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づき、2050年にできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるよう努力していく。
このように、見事なまでに「予定」「目指す」「努力していく」が並んでいる。
中間目標である「2030年度に2013年度比26%削減」は、なんと2015年から何も変わっていない。そもそも、1990年比であれば18%の削減でしかない。
まるで昨今の気候変動対策の世界的な危機感、それに呼応する市民や若者の声などなかったかのようだ。
国の内外から一斉に批判の声
この発表を受けて英ガーディアン紙は見出しに「恥ずべき(Shameful)」計画であると掲げ、「かつては気候変動対策の強力な推進者であり、京都議定書などの誇らしい業績もあった日本だが、近年はパリ協定(2015年)前後も、そして今も気候変動には生ぬるい対策しかしようとしていない」と伝えた。
クリスチャン・エイド(英国の国際援助団体)のKat Kramer氏は「世界的なパンデミックの最中にこの計画を出すことは計画の精査を避ける目的だろう。恥ずべきことだ」と述べた。
欧州気候基金(European Climate Foundation)の最高責任者であり、COP21特別代表のLaurence Tubiana氏も日本の計画への失望と、他国との動きとを比べながら低炭素社会への移行を訴えた。「もっとも困難な今の時期に私たちの直面するグローバルリスクから社会を守るため、大胆でさらに強化できるような計画が必要だ」とガーディアン紙に語った。
海外ばかりではない。日本の気候変動ネットワークは代表の浅岡美恵氏名でプレスリリースを出した。
「政府は今後さらに意欲的な目標にすべく見直すとしているが、「5年を待たず」とするのみで、その具体的なスケジュールやプロセスは何も示していない。そればかりか、科学が要請する1.5℃目標に必要な削減量を基礎とするのではなく、経済産業省によるエネルギーミックスの改定に沿わせるもので、無責任かつ危険な先送りというほかない」
「世界中で若者たちや市民が緊急の気候対策を求めて声をあげている中、不十分な目標を固定化させ、地球の将来を危険に晒し続けることは許されない。日本政府は速やかに2030年目標を引き上げる検討プロセスのあり方及びスケジュールの見通しを示す必要がある」(気候変動ネットワークのリリースより)
気候変動ネットワークは、2020年1月23日のリリースでは「少なくとも1990年比で45 – 50%削減」とするNDCをCOP26 へ再提出するよう求めている。
また、JCI、気候変動イニシアティブも末吉竹二郎代表名でリリースを出した。
その中で「政府は、(企業やNPOなど非政府アクター248団体が求める削減目標の強化を求める)こうした声にいっさい耳を傾けず、国の省庁の中だけの閉ざされた議論で、再提出を決定しました」「このままCOP26を迎えれば、「脱炭素化に後ろ向きな日本」という評価が定着し、日本企業の世界的なビジネス展開への障害となり、中小企業も含めサプライチェーンからの除外という事態も招きかねません。そして何よりも、自分たちと未来の世代のために、声をあげる日本と世界の若者たちの願いを裏切ることになります」と強調した。
なにより、日本がこれほどはやくNDCを表明したことが疑問視されている。削減目標に変わりがないNDCを表明することは、これから発表される他国のNDCへの影響も無視できないものだ。
まだ時間はある。速やかに見直しを
今回の日本のNDCはClimate Action Trackerによると、「非常に不十分」であり、このレベルであれば世界の気温上昇は3℃を超えることになる。COPでは既報の通り、1.5℃を求めており、野心的な目標引き上げはCOP25で何度も議論されたはずだ。それでも世界の気候災害は止まらないだろうとされている。今回のCOP26では2050年までに炭素ゼロ達成が期待されている。
今回の計画発表は、日本の信用力に直結する。COP25での日本の化石賞受賞も世界はまだ覚えている。英ガーディアン紙が伝えているように、日本の気候変動対策は世界から「生ぬるく」見られている。
COP26は前述の通り11月開催だ。まだ時間はある。日本政府は速やかに今回のNDCを見直し、より具体的で大胆な計画を練るべきだろう。
(Text:小森 岳史)
参照
環境省:
「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について
Guardian :
Campaigners attack Japan's 'shameful' climate plans releas(2020年3月30日)
気候ネットワーク:
日本、気候危機を招く不十分な気候目標を据え置き ~1年以内に気候・エネルギー政策を見直し、目標引き上げを~(2020年3月30日)
気候変動イニシアティブ:
日本政府のNDC提出に対する末吉竹二郎JCI代表のコメント -削減目標の早急な引き上げを-(2020年3月30日)