Financial(金融)+Technology(テクノロジー)はFintech。では、Climate+Fintechは?「気候フィンテック」と呼ばれる新たなビジネスが生まれようとしている。ATMOS Financialは、気候変動対策へ資金が流れるような仕組みを築くスタートアップだ。
気候変動対策と金融の組み合わせといえば、グリーンボンドを思い浮かべる人も多いだろう。あるいは、石炭火力発電所などからの投資引き上げであるダイベストメントを想像するかもしれない。
米国の気候フィンテック・スタートアップであるATMOS Financial は、フィンテックを使って、より身近に気候変動対策と金融の組み合わせを提供してくれる。
どこが身近なサービスなのか。それは、ATMOS Financialを通して、あたかも通常の銀行のように個人でも普通預金口座を開設できるからだ。
金利は最大0.51%と高く、グリーンエコノミーへの効率的な移行をサポートすることで高い利率を維持している。口座開設の際に気候変動対策に取り組む非営利組織1団体を選んで支援できるが、選んだ団体に毎月寄付を行うようにすることで、金利が0.11%アップするしくみだ。これは“win-win”の関係ということになる。
少し複雑だが、実はATMOS Financialは銀行ではない。銀行のパートナーとタッグを組み、クリーンエコノミーへ移行する金融商品を提供する気候フィンテックだ。ユーザーの預金はATMOS Financialではなく、提携銀行に預けられる。
預金の活用先は厳密に指定されており、再生可能エネルギープロジェクトや持続可能な農業、建築物の電化やエネルギー効率化のためのオーバーホールなどに限定されている。
逆に、資金提供を行わないとする対象は化石燃料の抽出やファストファッションなどとされている。先住民などのコミュニティを破壊するような再エネ開発にも資金提供を行わないとしている。
ATMOS Financialは、個人の預金の影響力を見える化しようと試みている。
同社ブログによると、ATMOS Financialの預金1ドルあたり2.34ポンドのCO2排出を回避できたとしている。これは、預金の8割が太陽光発電プロジェクトに融資された場合の試算だが、非常に興味深い試みではないだろうか。
同社のミッションは「すべての人にとってクリーンな経済への急速な移行に資金を提供すること」だ。創業者のひとりであるPete Hellwig氏は、2019年末時点の米国の主要な金融機関における預金残高のうち15%を持続可能な融資にまわすことができれば、米国の石炭火力発電所の75%をリプレースできるというシミュレーションを披露した。
Pete Hellwig氏は、金融機関が気候変動に与える潜在的な影響は大きいと指摘している。こうした信念で設立されたATMOS Financialは、まさに資金の流れを気候変動へとシフトする画期的な気候フィンテックだといえる。
2020年12月、クリーンエネルギー分野のスタートアップを支援する世界的な非営利組織New Energy Nexusは気候フィンテックに関する初のレポート「Climate Fintech Report」を発表した。気候フィンテックを脱炭素化のためのツールのひとつと位置づけ、個人から政府機関に至るまでのあらゆるアクターが保有する資金を気候変動対策へと動かすのに有効だと評価している。
出典:Climate Fintech Report: An Emerging Ecosystem of Climate Capital Catalysts
このレポートは、2020年に気候フィンテックに携わる100人以上のビジネスパーソンに対して実施されたインタビューをもとに構成されている。支払い、銀行、貸付、投資、取引、リスク分析などの8つのカテゴリーに分けて、気候フィンテックの可能性を探っている。
レポートによると、気候フィンテックは資金に関する情報の透明性を上げることで、市民から巨大な組織に至るあらゆる部門の意思決定を改善する便益がある。また、消費行動と投資、リスク分析の分野においてもっとも効果を発揮すると予想されている。
日本ではまだなじみのない「気候フィンテック」という言葉も、近い将来に一般的なものになるかもしれない。私たちが家庭で使う電気を再エネ100%のものに切り替えるように、銀行口座も資金の提供先によって判断できる未来がそこまできている。
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