前回は、産業構造の移行に向けた政府の支援、意思決定に向けた労組の関与の在り方などについて、話をおうかがいした。海外では脱炭素の決定プロセスに労働組合が参加しており、日本においても労働者の権利を守るために必要なことだろう。引き続き後編では、産業移行をめぐり、政府のみならず経営者に向けて、どういった対応が必要なのかについて、日本労働組合総連合会(連合)の総合政策推進局長、冨田珠代氏にお考えをうかがった。
—チリなど一部の国では石炭火力を廃止するための資金を手当てするなどの支援も行われています。
冨田珠代氏:これからのエネルギーミックスとしては、再エネによる分散型電源と蓄電池の組み合わせによって、抜本的に変化していく方向が示されており、そのための支援は必要です。
また、現在の日本の安定電力の供給力は非常に優れたものですが、それを可能としている要因の一つに、化石燃料の存在があります。脱炭素が重要なのはもちろんですが、現在の安定供給が可能となっている背景に、化石燃料の設備製造や発電所で多くの人が働いていることを忘れないでいただきたいと思います。CO2を多く排出する産業に従事する労働者が、自分の仕事に誇りをもって働けるということも大切です。日本の電気事業は、停電が少なく、停電したとしても復旧が早いのですが、それは、日々の安定供給のため、運転管理や設備の保守に多くの労働者が努力を惜しまずに働いているからこそです。
当面は化石燃料も含めたエネルギーの安定供給を維持しながら、カーボンニュートラルの実現にむけては、エネルギーミックスの実現と公正な移行を進めていくことが必要であり、気候変動問題だけが先走ることがないようにしなくてはいけないと思います。
日本労働組合総連合会 総合政策推進局長、冨田珠代氏
―日本はかつて、国内炭産業を終わらせてきた経験があります。すなわち産業移行を経験しているということです。この経験は生かせないものでしょうか。
冨田氏:ご指摘の通り、私たちの先輩方がそれを行なってきました。
炭坑労働者を失業することなく別の産業に移行させるにはどうすべきか、国、企業、労働者、地域の関係者が話し合い、移行を実現させてきました。必ずしも成功事例ばかりではなかったとはいえ、教訓も残されており、そうした経験を生かすべきだと考えています。そのためにも先程から申し上げている通り、関係当事者が参画する社会対話の枠組みが必要です。
繰り返しになりますが、産業転換に伴う労働移動は、対策が後手に回ると雇用にも地域経済にも少なからぬ影響が生じます。こうした負の影響を最小限に抑えるためにも、社会対話の結果が反映される公式協議の場などが必要です。
国内炭産業に限らず、海外にもさまざまな事例がありますので、そうした事例も参考に「公正な移行」を実現していきたいと思います。
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