UNFCCC、気候変動対策ロードマップ策定。エネルギー分野では水素で脱炭素 Race to Zeroも大々的に始まる。 | EnergyShift

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UNFCCC、気候変動対策ロードマップ策定。Race to Zeroも大々的に始まる。

UNFCCC、気候変動対策ロードマップ策定。エネルギー分野では水素で脱炭素 Race to Zeroも大々的に始まる。

2020年12月04日

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、2021年に英グラスゴーで開催が予定されているCOP26に向け、気候変動対策のロードマップ「Climate Action Pathways」を発表した。8分野のマイルストーンを明示し、エネルギー分野では「グリーン水素」にスポットが当てられた。

存在感増す「非国家アクター」の動き

2020年11月9日、気候変動枠組条約(UNFCCC)は、パリ協定の達成を指数関数的に加速するため、8つの分野におけるロードマップ「Climate Action Pathways」を発表した。新型コロナウイルスによる打撃から回復し、レジリエントな(柔軟な)脱炭素社会を目指すための道筋を明らかにしたものだ。

発表したのは今年6月に発足した「Race to Zero」の初のビッグイベント、「Race to Zero Dialogues」の初日だった。このイベントは11月9日から同19日にわたってオンラインで開催された。WHOといった国連機関をはじめ、SBTiやWe Mean Businessといったイニシアチブなど多くのステークホルダーが参加し、100回以上に及ぶ熱い対話(ダイアローグ)を交わした。

ちなみに、ハイレベル気候行動チャンピオンとは、政府・非政府アクターによる気候変動対策のためのイニシアチブを促進する役割を担う人物だ。2016年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)からスタートしたもので、毎年2名ずつ任命されている。2020年はチリの起業家、ゴンザロ・ムニョス氏と、英国の前We Mean Business CEOのナイジェル・トッピング氏だ。特にトッピング氏は2019年のCDP気候変動レポート(日本版)にコメントを寄せており、その際に来日もしている


左:ナイジェル・トッピング氏、右:ゴンザロ・ムニョス氏 UNFCCCウェブサイトより

8分野にわたりマイルストーンを提言

今回のロードマップは、チャンピオンズが指揮をとり、マラケシュ・パートナーシップによって作成された。マラケシュ・パートナーシップとは、非国家アクターとCOP締結国とのパートナーシップを強化し、気候変動に対する行動を促すための組織だ。320以上の国際イニシアチブに加え、オックスフォード大学や世界経済フォーラム、世界保健機関(WHO)や世界自然保護基金(WWF)など、27ヶ国にわたる各界のメンバーが携わった。

ロードマップでは次の8つの分野において、2021年11月にイギリス・グラスゴーで予定されているCOP26までに実行すべき、1.5℃目標達成のための短期と長期のマイルストーンをそれぞれ定めている。8の分野とは「エネルギー」「産業」「運輸・交通」「居住」「海洋」「水」「土地利用」「レジリエンス」だ。

ここでは、エネルギーを中心に紹介していく。

エネルギー分野では「グリーン水素」が登場

エネルギー分野のロードマップをまとめた「Climate Action Pathway: Energy Exective Summary」では、『再エネの急拡大や最終消費における電化、化石燃料からゼロエミッションの液化・ガス化燃料へのシフトなどの効果的な手段によって、脱炭素化は進んでいる』と評価されている。

エネルギー分野のマイルストーンの概略は、以下の通り。

電力の脱炭素:2021年には電力会社とディベロッパー90社が、2021年に検証されたネットゼロにコミットメントをだし、1.5℃目標に賛同。2025年には100ヶ国で100%脱炭素を目標に据える。2030年には世界の再エネの発電シェア60%、すべての人が手ごろな価格で信頼性の高い電気を利用できるようになる。2040年には世界の脱炭素化が完了。

セクターの統合:2021年には新型コロナウイルスからの復興資金の多くはスマートテクノロジーに向けられることが必要。2025年にはグリーン水素が25GWの容量を建設。1.5ドル/kgに。投資額は少なくとも1,000億ドル。2030年には1.5ドル/kgを下回り、累積の投資額は1兆ドル。2040年にはグリーン水素市場が成熟して主流になる。

化石燃料の構造変化:2021年には石炭火力発電所の新設なし。2025年にはコスト競争力の低下で石炭の流通が途絶える。2030年にはOECD加盟国はすべての電力部門で石炭火力の段階的廃止に成功。新興国でも段階的な廃止計画が進む。2040年には主要な排出はすべてなくなっていき、途上国でも段階的廃止がさらに進む


UNFCCC『Climate Action Pathway: Energy Exective Summary』より

 

2019年の全世界の40%にあたる14GtものCO2を排出した発電部門においては、発電源の転換が必須だとされ、再エネの必要性を強く訴え、2030年までに世界の発電の60%以上を再エネとすることが必要だとした。これは2019年より26ポイントの増加となる。さらに、エネルギー分野と産業分野を横断した脱炭素システムは、2050年を待たずに早期に必要とされると主張した。

注目したいのは、再エネによって生み出される「グリーン水素」について言及されている点だ。グリーン水素は、重量物の輸送や鉄鋼業などエネルギーを大量に消費する業界での活用が期待される。水素技術は今後、技術開発とともにコスト低減が望まれるが、これに伴って新たな市場が生まれ、雇用機会などの創出にもつながるとされた。

グリーン水素は、発電規模を2030年までに少なくとも25GWに拡大し、1,000億ドル(約1兆400億円)の投資が必要とされている。これによって、水素市場が300GWにまで拡大し、6,000億ドルの投資を呼び込み、50万人の雇用を生み出すとされた。

ロードマップでは、2035年までにゼロエミッション自動車100%などにも言及

以下、エネルギー以外の7つの項目についても、簡単に紹介しておく。

産業

  • 小売業者は、循環製品の売上を50%増加させ、2030年までに大型商品の車両全体を100%ゼロカーボンに移行する。
  • 日用消費財(またはパッケージ商品)企業は、主要な商品の調達による森林破壊をゼロにし、自社および消費者からの廃棄物を50%削減し、循環型および植物ベースの製品の売上は2030年までに50%増加する。
  • 問題のある、または不要なプラスチック包装は、2025年までに排除する(プラスチック包装の100%は再利用可能、リサイクル可能、または堆肥化可能とする)。

運輸・交通

  • 市場は2035年までに100%ゼロエミッション車を供給する。
  • 2025年までに10件のゼロカーボン船実証プロジェクトを実施。
  • 1.5℃の目標を達成するために必要なCO2排出削減量の85%を、電動化や効率化などの既存および新興の政策・技術で達成する。

居住

  • すべての新しい建物は2030年までに、ゼロカーボンで利用され、気候危機に備える。
  • 既存の建物は2030年までに広範囲にわたってエネルギー効率が高くなるような改修が順調に進んでおり、年間少なくとも3%でゼロカーボンへの改修率が向上する。
  • 現在市場化されている技術を通じて、70%のCO2排出削減量が達成可能。

海洋

  • 乱獲と破壊的な漁業は2021年までに終了し、科学に基づいた管理が実施されることで、可能な限り短い時間で魚の資源が回復する。
  • 2030年までに、完全かつ高度に保護された海洋保護区の30%が指定、導入される。
  • 海洋に依存する沿岸コミュニティ(漁業と水産養殖)の回復力と適応能力の向上、および2025年までに実施された脆弱性評価。
  • 2030年までのゼロカーボン燃料の安定市場。

  • 2025年までに、水の抽出、供給、処理、再利用に使用される持続可能な再生可能エネルギーのシェアを2倍にする。
  • 2030年までに気候リスク管理を通じて、上下水道事業者は完全に脱炭素化され、気候回復力を向上させる。
  • 地球の水に関連する自然生態系の30%は、2030年までに保護および回復される。

土地利用

  • 2050年までにパリ協定の土地利用部門における37%の貢献。
  • 残された原生林やその他の自然の陸域生態系の喪失と劣化は2030年までに70%減少させ、森林破壊は2025年までになくす。
  • 自然ベースのソリューションへの融資が、2030年までに年間1,000億ドル達成。

レジリエンス

  • 発展途上国に住む10億人を対象とした早期警報システムを導入し、2025年までに熱波対策計画を策定。
  • 2025年までに、5億人の脆弱な人々にリスクファイナンスと保険を提供する。
  • インフラストラクチャに年間6.9兆ドルが投資され、気候に対する耐性が高まることで、6億人のスラム居住者が2030年までに貧困から抜け出す。

ウェブサイト「Race to Zero」がスタート

同イベントでチャンピオンズは「Race to Zero」の新しいウェブサイトを発表した。


Race to Zeroウェブサイト

Race to Zeroとは、ネットゼロに向けた行動を加速するためのグローバルキャンペーンだ。もちろん、ハイレベル気候行動チャンピオンが陣頭に立つ。イニシアチブとしても、アクターとしても参加することができ、その要件を満たしていない組織でもサポーターとして参加可能。申し込み者にはニュースやイベントなどのキャンペーン情報を共有していくという。

トッピング氏はこのRace to Zeroについて、「非線形な変化は、人類の歴史における主要な変化の中心だった。相互依存する経済と政治の分野横断的でデジタルなシステムでつながったこの惑星では、変化がどのように起こるのか。波及効果は急増する」と述べ、ネットゼロに向けた急激な変化への期待を寄せた。

参照
UNFCCC "UN Climate Action Pathways Map Route from Covid-19 Recovery to Resilient, Net Zero Economy"

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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