国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、2021年に英グラスゴーで開催が予定されているCOP26に向け、気候変動対策のロードマップ「Climate Action Pathways」を発表した。8分野のマイルストーンを明示し、エネルギー分野では「グリーン水素」にスポットが当てられた。
2020年11月9日、気候変動枠組条約(UNFCCC)は、パリ協定の達成を指数関数的に加速するため、8つの分野におけるロードマップ「Climate Action Pathways」を発表した。新型コロナウイルスによる打撃から回復し、レジリエントな(柔軟な)脱炭素社会を目指すための道筋を明らかにしたものだ。
発表したのは今年6月に発足した「Race to Zero」の初のビッグイベント、「Race to Zero Dialogues」の初日だった。このイベントは11月9日から同19日にわたってオンラインで開催された。WHOといった国連機関をはじめ、SBTiやWe Mean Businessといったイニシアチブなど多くのステークホルダーが参加し、100回以上に及ぶ熱い対話(ダイアローグ)を交わした。
ちなみに、ハイレベル気候行動チャンピオンとは、政府・非政府アクターによる気候変動対策のためのイニシアチブを促進する役割を担う人物だ。2016年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)からスタートしたもので、毎年2名ずつ任命されている。2020年はチリの起業家、ゴンザロ・ムニョス氏と、英国の前We Mean Business CEOのナイジェル・トッピング氏だ。特にトッピング氏は2019年のCDP気候変動レポート(日本版)にコメントを寄せており、その際に来日もしている。
左:ナイジェル・トッピング氏、右:ゴンザロ・ムニョス氏 UNFCCCウェブサイトより
今回のロードマップは、チャンピオンズが指揮をとり、マラケシュ・パートナーシップによって作成された。マラケシュ・パートナーシップとは、非国家アクターとCOP締結国とのパートナーシップを強化し、気候変動に対する行動を促すための組織だ。320以上の国際イニシアチブに加え、オックスフォード大学や世界経済フォーラム、世界保健機関(WHO)や世界自然保護基金(WWF)など、27ヶ国にわたる各界のメンバーが携わった。
ロードマップでは次の8つの分野において、2021年11月にイギリス・グラスゴーで予定されているCOP26までに実行すべき、1.5℃目標達成のための短期と長期のマイルストーンをそれぞれ定めている。8の分野とは「エネルギー」「産業」「運輸・交通」「居住」「海洋」「水」「土地利用」「レジリエンス」だ。
ここでは、エネルギーを中心に紹介していく。
エネルギー分野のロードマップをまとめた「Climate Action Pathway: Energy Exective Summary」では、『再エネの急拡大や最終消費における電化、化石燃料からゼロエミッションの液化・ガス化燃料へのシフトなどの効果的な手段によって、脱炭素化は進んでいる』と評価されている。
エネルギー分野のマイルストーンの概略は、以下の通り。
電力の脱炭素:2021年には電力会社とディベロッパー90社が、2021年に検証されたネットゼロにコミットメントをだし、1.5℃目標に賛同。2025年には100ヶ国で100%脱炭素を目標に据える。2030年には世界の再エネの発電シェア60%、すべての人が手ごろな価格で信頼性の高い電気を利用できるようになる。2040年には世界の脱炭素化が完了。
セクターの統合:2021年には新型コロナウイルスからの復興資金の多くはスマートテクノロジーに向けられることが必要。2025年にはグリーン水素が25GWの容量を建設。1.5ドル/kgに。投資額は少なくとも1,000億ドル。2030年には1.5ドル/kgを下回り、累積の投資額は1兆ドル。2040年にはグリーン水素市場が成熟して主流になる。
化石燃料の構造変化:2021年には石炭火力発電所の新設なし。2025年にはコスト競争力の低下で石炭の流通が途絶える。2030年にはOECD加盟国はすべての電力部門で石炭火力の段階的廃止に成功。新興国でも段階的な廃止計画が進む。2040年には主要な排出はすべてなくなっていき、途上国でも段階的廃止がさらに進む
UNFCCC『Climate Action Pathway: Energy Exective Summary』より
2019年の全世界の40%にあたる14GtものCO2を排出した発電部門においては、発電源の転換が必須だとされ、再エネの必要性を強く訴え、2030年までに世界の発電の60%以上を再エネとすることが必要だとした。これは2019年より26ポイントの増加となる。さらに、エネルギー分野と産業分野を横断した脱炭素システムは、2050年を待たずに早期に必要とされると主張した。
注目したいのは、再エネによって生み出される「グリーン水素」について言及されている点だ。グリーン水素は、重量物の輸送や鉄鋼業などエネルギーを大量に消費する業界での活用が期待される。水素技術は今後、技術開発とともにコスト低減が望まれるが、これに伴って新たな市場が生まれ、雇用機会などの創出にもつながるとされた。
グリーン水素は、発電規模を2030年までに少なくとも25GWに拡大し、1,000億ドル(約1兆400億円)の投資が必要とされている。これによって、水素市場が300GWにまで拡大し、6,000億ドルの投資を呼び込み、50万人の雇用を生み出すとされた。
以下、エネルギー以外の7つの項目についても、簡単に紹介しておく。
産業
運輸・交通
居住
海洋
水
土地利用
レジリエンス
同イベントでチャンピオンズは「Race to Zero」の新しいウェブサイトを発表した。
Race to Zeroとは、ネットゼロに向けた行動を加速するためのグローバルキャンペーンだ。もちろん、ハイレベル気候行動チャンピオンが陣頭に立つ。イニシアチブとしても、アクターとしても参加することができ、その要件を満たしていない組織でもサポーターとして参加可能。申し込み者にはニュースやイベントなどのキャンペーン情報を共有していくという。
トッピング氏はこのRace to Zeroについて、「非線形な変化は、人類の歴史における主要な変化の中心だった。相互依存する経済と政治の分野横断的でデジタルなシステムでつながったこの惑星では、変化がどのように起こるのか。波及効果は急増する」と述べ、ネットゼロに向けた急激な変化への期待を寄せた。
参照
UNFCCC "UN Climate Action Pathways Map Route from Covid-19 Recovery to Resilient, Net Zero Economy"
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