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温室効果ガス削減目標やNDCの据置は、日本にとって多くのリスクがある

温室効果ガス削減目標やNDCの据置は、日本にとって多くのリスクがある

2020/05/19

2020年3月末、日本政府はパリ協定に基づく温室効果ガス削減目標を改めて決定した。しかし、2015年に決めた目標草案から引き上げがなかったことに対し、国内外からの批判が出ている。このことは、単に日本が批判されるということだけではなく、日本にとってのリスクにもなりかねない。それはどのようなリスクなのか、共同通信社編集委員の井田徹治氏にご寄稿いただいた。

据え置かれた日本の温室効果ガス削減目標

日本政府は3月末、パリ協定に基づいて提出する日本の温室効果ガス削減目標などを含む「NDC(国が決定する貢献)」を決定、気候変動枠組み条約事務局に提出した。各地で気象災害が多発、南極やグリーンランドの氷床の溶解がこれまでにない規模で進むなど「気候の危機」が叫ばれる中、主要排出国に削減目標の深掘りを求める声が高まっている。

だが、政府は今回「30年度に13年度比で26%削減」との削減目標を据え置くことを昨年中に早々に決定。次回の見直し時期である5年後を待つことなく今後「意欲的な数値を目指す」との文言などを盛り込むにとどまった。長期的な削減目標についても「人工光合成をはじめとするCCUS技術や水素社会の実現など非連続なイノベーションの実現を通じて2050年にできるだけ近い時期に『脱炭素社会』を実現できるよう努力していく」とするだけだった。

パリ協定の目標達成に必要な野心向上

パリ協定は産業革命以来の世界の平均気温の上昇を「2度より十分に下回るものに抑え、1.5度に抑えるための努力を続けること」を目標として掲げる。よく知られているように、パリ協定に基づいて各国が提出したNDCの削減量を合わせてもこの目標達成にはほど遠い。

このため、協定には5年に一度のサイクルでNDCを更新し、可能な限り上積みを目指す仕組みが盛り込まれている。それが最初に動き始めるのが次回の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。ここで各国がNDCの上積みにどれだけ踏み出せるかが、将来の気温上昇の行方を大きく左右することになる。
パリ協定採択後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した「1.5度の温暖化」をはじめとする三つの特別報告書などの結果を受け、非常に困難であっても「1.5度目標」達成への努力を強化することが国際的に重要な課題となっており、COP26は国連などによって「野心向上のCOP」と呼ばれるまでになっている。

また、1.5度を実現するために「2050年ごろに実質的に排出をゼロにする」ことが必要だとのIPCCなどの指摘を受ける形で、英国、フランスなど約20の国と地域が「50年カーボンニュートラル」との目標を掲げることを表明、あるいは目標を定める国内議論を始めているまでになっている。

その中で、5年前の削減目標を据え置き、50年のカーボンニュートラルにも言及しなかった日本の姿勢に、海外の環境保護団体などから厳しい批判の声が上がったのは当然だ。しかも、26%減の基準となる2013年は東京電力福島第1原発事故の影響で、排出量が特に多かった年であるため、1990年比ではわずか18%の減にとどまり、同40%減のEUなどには大きく見劣りする。

小泉進次郎環境相は、関係省庁とのやりとりの中で目標据え置きに合意した後も、5年を待たずに「目標を上積みする」と明確にするよう求めたが、経済産業省や首相官邸の壁に阻まれ「意欲的な数値」とのあいまいな表現にとどまった。

当然ながら世界第5位の主要排出国の一つである日本の排出削減の上積みがないことは、今後の国際交渉の進展に悪影響を与えることもあって、気候変動のリスクを拡大させる。だが、日本の後ろ向きなNDCがもたらすリスクはそれにとどまらない。

その一つが、気候危機が深刻化する中で、先進国として、大排出国の一つとして「危機に背を向ける国だ」とのそしりを受ける「評判のリスク」だ。

ファイナンシャルリスクに目をそらす日本政府

米国の著名なシンクタンク、世界資源研究所(WRI)は、日本のNDC公表直後に「このような姿勢は日本の国際社会での中の地位を危うくするものだ」と指摘した

この2月、駐日英国大使館で開いたイベントで、COP26の特使を務めるジョン・マートン氏は「日本の目標は、産業革命以来の気温上昇が3~4度上昇することを許すレベルだ。途上国の石炭を支援する日本の資金が気候変動を悪化させる」と厳しく批判した。外交官が公の場で他国の個別を批判するのは異例だ。こんなところにも日本が後ろ向きなNDCによって背負う評判のリスクの大きさが見て取れる。

そして、日本の消極的なNDCがもたらすリスクは評判のリスクにとどまらない。WRIは「欧州や他の国々が真剣に脱炭素の道筋を模索する中で、それに遅れを取り、化石燃料関連の座礁資産を持ち続けることが日本にとっての大きなファイナンシャルなリスクともなる」と指摘した。

NDC発表直前、CDPやPRI(責任投資原則)など世界の機関投資家などでつくる6グループが連名で、安倍晋三首相に日本のNDC引き上げを求める提言を発表している。運用資産総額が数百兆円に上る投資家グループの姿勢が、この指摘を裏付けている。

経団連や日本商工会議所など既存の経済団体は「日本の産業界は絞った雑巾で、目標上積みはするべきではない」と相変わらずの主張を繰り返すが、日本の産業界の中にも、日本のNDCの据え置きは「消極姿勢を対外的に表明するばかりでなく、他の国々の努力に水を差す。『脱炭素化に後ろ向きな国』という評価が広がれば、日本企業の世界的なビジネス展開への障害となり、中小企業も含めサプライチェーンからの除外という事態も招きかねない」(気候変動イニシアティブ、JCI)との声も出ている。

民主的でオープンな政策決定プロセスでリスク回避を

日本のNDCが据え置かれた最大の理由は、2015年に国が決めた「長期エネルギー需給見通し」での30年度のエネルギーミックス(電源構成)の見直しがまったく進んでいないことにある。原発の比率を20~22%と、現状からはどう見ても実現不可能なほど高くする一方で、再生可能エネルギーは諸外国に比べて低い22~24%に抑えられている。地球温暖化対策から多くの先進国が廃絶を打ち出している石炭火力の比率も26%と高く、海外から石炭依存への厳しい批判が出ている。

先に紹介した英国大使館のイベントの参加者の一人は「パリ協定の採択以降の5年間に政策や技術、企業の取り組みが大きく進んだ中で、日本のように技術も資金もある国のNDCが5年前と変わらないというのは多くの人にとって受け入れがたい」と指摘した。

今後の日本の社会や経済の姿を大きく左右する重要な問題でありながら、すべてが関係省庁の交渉で決められ、多くの利害関係者の意見が反映されないという非民主的な政策決定プロセスにも大きな問題が残った。

世界の大半をロックダウン状態に追い込んだ新型コロナウイルスのパンデミックは、各国が自前のエネルギー源を持つことの重要性を教えた。原発が頼りにならない以上、再生可能エネルギーへのシフトを一層、強めるしか道はない。各国に比べて真の独立性と透明性では劣るものの、この4月からは大手電力会社の発送電分離もスタートしたことは、それを後押しするだろう。しかも、コロナ後の復興のために今後、世界全体で10兆~20兆ドルもの新規の投資がなされることになる。その多くの部分が、脱炭素社会形成のための投資に向かうことは明白なのだが、このままでは日本がその大きな変革から取り残されることになりかねない。

この11月に予定されていたCOP26は来年に延期された。議論の時間が与えられたのだと考え、霞ヶ関も密室での議論ではなく、すべてのステークホルダーを巻き込んだオープンな議論の場で、NDC上積みの道を早急に探ることしか、日本の前に立ちふさがるさまざまなリスクを回避する道はない。

参照
井田徹治
井田徹治

共同通信社編集委員兼論説委員、環境・開発・エネルギー問題担当 1959年12月、東京生まれ。1983年、東京大学文学部社会学科卒、 同年共同通信社に入社。つくば通信部などを経て1991年 本社科学部記者。 2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。2010年から現職。 環境と開発の問題を30年以上にわたって取材。アジア、アフリカ、中南米などでの環境破壊や貧困の現場、問題の解決に取り組む人々の姿などを報告してきた。気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミットなど多くの国際会議もカバーしている。著書は『大気からの警告―迫りくる温暖化の脅威』(創芸出版)、『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書)、『生物多様性とは何か』(同)、「霊長類 消えゆく森の番人」(岩波新書)、「追いつめられる海」(岩波書店)など多数。

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