これまでみてきたように、ESG関連の情報開示はいままさに激動の時代を迎えている。サステナビリティ、環境関連の情報開示もその中で今後を模索している。
TCFDが今回のCGコード改訂で言及されたが、そこで終わりではないということだ。
今後の非財務情報の開示については、2つの方向性があると思われる。ひとつは、より定量的な、比較可能な統一基準の策定が進むこと。もうひとつは、ESGのE(環境)だけではなく、より広い範囲に非財務情報が拡大することだ。
まず、より定量的な方向への動きを見てみると、前述の通り、IFRS財団の動きが顕著だ。実はTCFDは、どちらかというと定性的な開示方法で、「ゆるい」開示だといえる。TCFDは本来的には自発的な賛同であり、任意開示、11の開示項目も「推奨」となっている。(この「ゆるさ」が日本の賛同数増加にも役立ったのかもしれない)。統合報告書のTCFD部分をみると各社工夫を凝らし、といえば聞こえがいいが、つまりはばらばらである。もちろん、業種ごとのTCFD開示ガイダンスもあるのだが、投資家からは企業間の横比較が難しいという要望があった。
一方、定量的な開示項目できつくなってくると、ハードルがあがり、柔軟な対応が難しくなってくる。まずは来年(2022年)6月に発表されるというIFRS/ISSBの統一基準を注視する必要があるだろう。
では、より広い非財務情報の開示とは、どこまでを指すのか。金融庁の担当者は取材に対してこう答えている。
「(開示の)順番としてはESGの中のEでTCFDである。世界的にもEが先行しているのはその通り。IFRS財団のISSB中でもESGの概念が出てくるが、彼らはクライメイトファーストでEを先行して基準開発していくといっており、世界的な流れとしてはEが先をいっているというのはそうなのかと思っている。
ただ、CGコード改訂全文や意見書にもあるが、E(環境)、気候変動だけではなくS、人的資本への投資や知財も国際競争力の観点から効果的な取組みの必要性がある。一方、G(ガバナンス)はCGコード自体といえる。これらESGに対して、金融庁としては順位をつけているわけではない」(金融庁担当者)
Sに当たる人的資本でいえば、サプライチェーン内の労働者の人権問題はアメリカと中国が新疆ウイグル地区の問題等で応酬を続けている。日本にも技能実習生の問題がある。さらに製造物責任、利害関係者の対立、社会的機会の課題も山積している。
Eに対しても、TCFDに対して自然資本、生物多様性の視点からのリスク情報開示を求めるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が2020年7月にUNDP(国連開発計画)、WWF(世界自然保護基金)、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、英国環境NGO・グローバル・キャノピーによって設立された。気候変動から、自然資本へと対象を拡大する動きになる。
また、上場企業を始めとする企業にはより質の高い統合報告書やサステナビリティ委員会の設立も必要になってくるだろう。また、これらの情報開示のベースにあるSBTi(サイエンス・ベースド・ターゲット)、科学的な情報による指標作成も重要だ。
金融庁の担当者は取材に対し、今回のCGコード改訂と開示のこれからについて、こう答えている。
「(CGコード改訂の)目的としては、投資家との対話を積極的にはかって、中長期的な企業価値の創造を高めることにある。今までのようなブラウンな企業に投資をするのではなく、グリーンな企業を投資家が求めており、世界がそちらの方向に向かうのであれば、投資家との建設的な対話が行われる。様々なグリーンな取組みが、中長期的な企業価値の向上に資するのかを相互に話しあい、それに基づいて経営をすることが重要だ。CGコード自体もそうした視点を持っている。
企業によって様々な状況があるとは思うが、そのおかれた状況の中で適切な開示をおこなって企業と投資家の中で企業価値の向上を目指してもらうということになる」
こうしたESG情報開示、TCFDを始めとするサステナビリティ開示を、企業の負担と感じるのか、新たな収益機会の取得にするのか、それが問われている。
シリーズ:イチからはじめるプライム市場・CGコード・気候変動対応
(1)なぜ今、東証再編? 海外から魅力のない日本市場の実態とは
(2)今こそコーポレート・ガバナンス・コードに向き合うべき理由
(3)東証再編でキーになるTCFD すべての企業は具体的に何をしていけばいいのか
関連記事
参照
JPX コーポレートガバナンス・コード (改定前からの変更点)
JPX コーポレートガバナンス・コードの改訂に伴う実務対応
JPX ESG情報開示枠組みの紹介
IFRS財団がISSBの設立、CDSB及びVRFの統合、ならびに報告基準プロトタイプを公表(VRF日本事務局による概訳)
TCFDによる提言 2017年6月 日本語訳
気候関連財務情報開示に関するガイダンス2.0(TCFDガイダンス2.0)
CDSB We can’t afford fragmented financial reporting
事務局説明資料2(サステナビリティに関する開示(1))
金融庁 第2回金融審議会ディスクロージャーワーキンググループ 事務局説明資料2
金融庁 第2回金融審議会ディスクロージャーワーキンググループ 事務局参考資料
気候変動の最新記事