銀行は気候危機解決の救世主になれるか? 〜注目される気候株主提案と最新署名キャンペーン〜 | EnergyShift

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銀行は気候危機解決の救世主になれるか? 〜注目される気候株主提案と最新署名キャンペーン〜

銀行は気候危機解決の救世主になれるか? 〜注目される気候株主提案と最新署名キャンペーン〜

2021/06/20

6月は株主総会の季節である。最近、注目されているのは、株主総会における、気候変動対策に関連した株主提案だ。近年は、機関投資家などが企業の気候変動対策を厳しく問うようになってきており、実際に企業活動に影響を与えている。環境NGOもまた、こうした銀行など金融セクターにはたらきかけることで、脱炭素への取組みを加速させることになるだろう。350Japanのスタッフによる連載コラムの第6回は、気候株主提案と署名キャンペーンについて紹介する。

350.org Japanリレーエッセイ

今すぐ始めないと手遅れに…「脱化石燃料」が急務なワケ

前回は、気候ダイベストメント運動がどのように始まり、業界や地域を超えて広がりを見せてきたか、そして誰でも参加できる「レッツ・ダイベスト」キャペーンについてをお伝えしました。

今回は、日本の金融機関が気候変動に対してどのような対応を取っているのか、その現状と課題についてお伝えしたいと思います。さらに、今月行われる株主総会に関連した最新の動きと、皆さんが参加できるアクションもお伝えします。 

気候危機解決のために、「脱化石燃料」が待った無しであるという緊迫感が日に日に増しているように思います。

先月、IEA(国際エネルギー機関)が発表した、2050年ネットゼロに向けたロードマップでも、新規の石炭火力発電所や石油・ガス田の開発、新規の石炭採掘や拡張は全て許容されず、2030年には先進諸国でCCS*無しの石炭火力発電所は全廃、2040年には世界全体で同様の状況および石油火力も全廃などと提言されました。

これまで再エネの役割を過小評価し、保守的なことで知られていたIEAの今回の発表は、私たちが今、非常に重大な局面にいることを改めて知らしめたように思います。

これまでも科学は既存の化石燃料施設を平均的な稼働年数まで使用し続けた場合、1.5度に気温上昇を抑えるためのカーボン・バジェット(炭素予算:排出できるCO2量)を超えてしまうと警告してきました。環境NGOも「化石燃料の探査・採掘の拡大、あるいは採掘の継続・拡大を推進するインフラの拡張は全て、パリ協定と矛盾する。既存の化石燃料の生産と使用について、迅速かつ管理された段階的廃止を今始めなければならない」と提言してきました。

*炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage)

今、銀行の気候変動対策が超重要なワケ

化石燃料ビジネスに関わる企業が、脱化石燃料に舵を切ることが気候危機の解決に向けて急務ですが、それを強力に後押しできる存在の一つが金融機関です。しかしながら、RAN他の調査によれば、世界の主要民間銀行60行はパリ協定採択後の5年間で、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)事業に合計3兆8,000億ドル(約414兆円)を提供しました。

年別でみると、2020年の新型コロナウィルス感染拡大による需要と生産減少による前年比9%減を除き、2016年から毎年増加傾向にあったのです(図1)。

ここには、日本の大手金融機関も含まれており、3メガバンクと呼ばれる三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が化石燃料への資金提供額で世界第6位、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)が世界第8位、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が世界第18位にランクインしています(図2)。これらの銀行はまた、Urgewaldの調査により、世界の石炭産業への融資額で過去2年間に世界トップ3にもランクインしています(図3)。つまり、日本の3メガバンクは気候危機の加速に大きな役割を担ってしまっているのです。

図1:化石燃料への融資・引受総額 2016-2020年(米ドル)


RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2021 要約版」より

図2:パリ協定以降(2016-2020年)のワースト12銀行


RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2021 要約版」より

図3:2018-2020 石炭産業への融資銀行世界ランキング


Urgewald他「脱石炭リスト投融資調査2020」より

日本のメガバンクの気候変動対策は低い国際評価

でも、メガバンク各社は、「石炭火力発電所には投融資しない」という方針を出していますよね? 気候変動に関心のある方は、ここ数年、こうしたニュースを見聞きしているかもしれません。

実際にここ数年間、3メガバンクの方針は年々改定され、新規石炭火力発電所への投融資をやめる方針を打ち出し、抜け穴を少しずつ塞ぐなど徐々に方針が強化されてきました。

しかしながら、前回見たように、ベトナム・ブンアン2のように「支援表明済み案件」として、例外扱いして融資を行う事例もあり、方針の抜け穴が問題視されてきました。また、新規だけではく既存の案件に関しても、パリ協定と整合的なタイムラインで段階的撤退(フェーズアウト)を行うことが重要ですが、3行の具体的なフェーズアウト目標は、石炭火力発電向けのプロジェクト・ファイナンスに限られており**、包括的な企業ファイナンスを含むパリ協定に整合した目標がないことが課題となっています***。

こうした状況から、日本のメガバンクの方針の評価は、海外のライバル銀行と比べて低い水準に留まっています。

また、石油・ガス部門についての方針が非常に弱いのも日本のメガバンクの特徴です。同部門については、みずほが今春の改定で、脱炭素化への移行リスクについて関連企業とのエンゲージメントを強化する方針を掲げましたが、3行とも石炭火力のように新規事業への投融資を制限したり、フェーズアウト方針も打ち出せていません。

したがって、石炭火力に関する方針よりもさらに低い国際評価となっています。2021年3月時点の評価なので今春の改定は加味されていませんが、化石燃料への資金提供が最多だった12行のポリシー評価を比べると、トップのBNPパリバは200点満点中92.5点ですが、MUFGは6.5点、みずほは5点に留まっています。

**プロジェクトから発生するキャッシュフローにより資金調達できる仕組み。大規模インフラプロジェクトなどに多く用いられる。
*** MUFGは5月の改定で、事業に占める石炭火力発電の比率が高い顧客向けコーポレート与信の残高目標の開示方針を発表。時期や詳細については未定。

3メガバンクのトップランナー?

では今春の改定を経て、3メガバンクの中で方針に違いがあるのでしょうか? 答えはYesです

各行のポリシーはそれぞれの強みや弱みがありますが、現時点ではみずほが一番強化した方針発表していると見られています。同行は2021年5月、「石炭火力・石油火力・ガス火力発電、石炭鉱業および石油・ガスを主たる事業とする企業への移行リスクへの対応状況を確認し、一定期間を過ぎても進捗がない場合、取り引き判断を慎重に行う」という方針を追加しました。また、石炭採掘について、新規の炭鉱採掘(一般炭)への投融資を行わない方針をメガバンクの中で初めて打ち出しました(ただし、既存案件には抜け穴あり)。

一方、MUFGは5月、2050年にカーボンニュートラル達成を目指すと発表し、ファイナンスによる排出量を2050年までにネットゼロにすることにコミットする国際的イニシアティブ、Net-Zero Banking Allianceに邦銀として初参加しました

ただし、ネットゼロに至るロードマップとして重要な短期・中期の目標や指標が示されていないことが課題となっています。なお、MUFGは2022年度に中期目標を発表するとしています。

待った無しの気候変動対策は、2030年までの温室効果ガス半減、さらに言えば2025年までの毎年の削減行動が不可欠とUNEP(国連環境計画)が指摘している通り、対応が遅れれば遅れるほど1.5度目標から遠のいてしまいます。科学の警告を真剣に受け止めれば、一刻も早い短期・中期の目標策定と実施が成功の鍵を握ると言えます。

気候変動株主提案の波は日本にも

今年3月、環境NGOの気候ネットワークおよび国際環境NGOに所属する個人株主3名は、MUFGに気候変動に関する株主提案を提出しました。昨年のみずほに続く、日本の金融機関に対する2件目の気候変動株主提案となります。

内容は去年のみずほとほぼ同様で、「パリ協定の目標に沿った投融資を行うための指標と短期、中期及び長期の目標を含む経営戦略を記載した計画を決定し、年次報告書にて開示する」ことを求めるものです。

本提案の発表後、350 Japanを含む環境NGO4団体はMUFGと4回の会合を持ち4月及び5月の同行の方針改定についても議論を行ってきました。しかしながら、上述のように提案で求めているパリ協定と整合的な短期・中期の目標及び指標の開示には至っておらず、株主提案を継続することで、MUFGの気候変動対策を前へ進め、企業価値の向上と株主利益の向上に繋がる(そして、気候変動の影響を受ける全ての人の利益に繋がる)と考えています。

提案と現在のMUFGの方針との差異については、2回目の投資家向け説明資料で詳しく説明しています。なお、6月18日には住友商事の株主総会で環境NGOマーケット・フォースによる類似の提案が議論されることになっていました。実際にどのような議論がなされたのか、こちらもご注目ください。

実は、気候変動に関する株主提案は、欧米ではここ数年大きな潮流の一つとして注目を浴びてきました。

5月末にはエクソンモービルの気候変動対策が不十分だとして取締役の刷新を求めた株主提案により会社の反対にも関わらず3名が選出、世界最大の資産運用会社のブラックロックも賛成票を投じたことが話題となりました。

大手金融機関への提案も相次ぎ、英HSBCが機関投資家15社からの株主提案を受け、石炭火力及び採掘に関わる企業ファイナンスのフェーズアウト、パリ協定と整合的な短期・中期の目標を石油・ガス・電力・ユーティリティセクターを皮切りに今年設定することなどを会社から提案。99%以上の賛成票を得ました。

こうした気候変動株主提案は、石油メジャーや金融機関のほかにも様々な業界に及び、アメリカだけでも2020年は2019年と比べて2倍に、賛同する株主も26%から34%へと拡大しているそうです。また興味深いことに、2010年から16年まで、環境関連株主提案が1つあるごとに、当該企業による気候変動リスクの開示は平均約4.6%上昇したとの分析が発表されています。

しかも、情報開示に対して株式市場がポジティブに反応したことも立証され、企業にとっても情報開示が利点となることが示唆されました。この種の株主提案がより活発化し、気候危機への対応の緊急性がより認識され、また再エネや蓄電池といった解決策のポテンシャルも高まっている今日では、より顕著な結果が現れるのではないでしょうか。

短期的な利益に目を向けることよりも長期的な視野に立ち今の行動を決めることが大切ですが、短期的に見ても気候変動対策を行う企業は評価され、企業にとってプラスのインパクトをもたらしているようです。

銀行の脱化石燃料を求める署名キャンペーンを開始

350 Japanは今月11日、3メガバンクに「脱化石燃料」を求める署名キャンペーンを立ち上げました。

日本経済を牽引してきた3メガバンクが脱化石燃料に舵を切ることを市民の声で後押しすることで、日本の産業界全体が脱化石燃料へと舵を切り、世界の中で気候変動対策をリードしてほしいという願いを込めています。署名は、MUFGの株主総会の前に第一次提出を行う予定です。どなたでも30秒でできますのでぜひご参加し、拡散していただければ嬉しいです。

英語でも発信していますので、海外のご友人にもお知らせください。また、団体署名も同時に募集中です。

350 Japanでは、この他にも誰でも参加できるアクションを呼びかけています。ぜひ InstagramTwitterFacebookなどのSNSのフォローや、HPからサインアップしていただくことでメールで最新のアクションのお知らせをお届けします。皆さんと一緒にアクションを盛り上げていけたら嬉しいです。

渡辺瑛莉
渡辺瑛莉

国際環境NGO 350.org日本支部シニアキャンペーナー。 都立国際高校卒。上智大学文学部社会学科(東南アジア文化副専攻)卒。在学中より、アジアの子どもや若者たちの教育や職業訓練をサポートするNGO活動に携わる。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科在学中より、インドネシアの津波被災者の支援活動や、日本の政府開発援助(ODA)による現地の環境社会影響調査などを行う。修士号取得後、国際環境NGO FoE Japanにてキャンペーナーに6年間従事。海外における日本の大規模開発プロジェクトの環境社会影響調査や政策提言活動、原発事故被害者支援のための政策提言活動などを行う。上智大学グローバル・コンサーン研究所、南米ウルグアイ在住などを経て、2019年4月から現職。 350.orgとは ニューヨークに本部を置く国際環境NGO。世界約180の国と地域で気候危機の解決に取り組んでいる。(1)新たな化石燃料関連プロジェクトを止める、(2)既存の化石燃料ビジネスに対する資金提供を絞る(ダイベストメント)ことで化石燃料使用を止める、(3)再生可能エネルギー100%の社会への公正かつ迅速な移行を目指す。という3つの目標を掲げ、それらを草の根の市民活動で達成しようというのが特徴。 https://world.350.org/ja/ https://350jp.org