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デジタルネイティブ世代による気候ムーブメントとは

デジタルネイティブ世代による気候ムーブメントとは

2021年04月04日

2021年3月19日、「世界気候アクション0319」がグローバル開催された。コロナ禍での開催となり、日本などデジタルアクションが中心となる国・地域もあった。デジタルネイティブな現代の若者を中心としたアクションは、これまでの市民運動と何が異なっているのか。350.org Japanのデジタル担当、田中ゆうじ氏が解説する。

350.org Japanリレーエッセイ

 

歴史上最大級の気候ムーブメント

近年、若者による気候変動ムーブメントが活発化しています。これまでのムーブメントとどのような違いがあるのか、どのような課題が残されているのかを350 Japanのデジタル担当からの目線でお伝えします。

はじまりはたった1人

スウェーデンの気候活動家、グレタ・トゥーンベリさんが総選挙を控えるストックホルム国会議事堂前に座り込みを始めたのは、2018年8月。

当時16才の女子高校生だった彼女が、たったひとりで政府に“気候変動対策の強化”を求め、学校ストライキをして座り込みを続ける姿に、多くの共感が広がり、メディアとSNSを通じて瞬く間に脚光を浴びました。

投稿の中で使われた「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」という言葉はSNSで拡散され、全世界で若者達が立ち上がり、ハッシュタグ自体がスローガン、次第に団体名となり多くの若者が”将来の生活・社会”のために立ち上がるきっかけとなりました。

世界760万人がマーチに参加

そんな中、2019年9月に国連気候行動サミットがセッティングされます。

それまでも若者を中心とした気候ストライキを世界各国で主催していた Fridays for Futureを中心に「グローバル気候マーチ」が開催されました。

「若者だけでなく、大人も立ち上がってほしい」という声に賛同し、世界760万人以上が参加。気候ムーブメントでも前例にないほどの大きなうねりとなりました。日本でも23都道府県で5,000人以上が参加し、過去最大級の気候マーチとなりました。

2019年を皮切りに、日本でも"気候変動を考えるきっかけ"となるマーチが定期的に開催され、日本各地にFridays for Futureを中心に多くのコミュニティができ、それぞれの地域で精力的に活動を展開しています。

広がるマーチの輪

2021年3月19日には「世界気候アクション0319」がグローバルで開催され、日本では25団体34アクション(デジタルアクションが中心)への参加が呼びかけられました。

コロナ禍でも気候変動問題の緊急性は変わらず、直接会うことができなくても、デジタルならつながることができるとの思いから、SNSストームを企画。ハッシュタグ「#私たちの未来を手放さない」と共に、多くの人々がハッシュタグ「#ClimateHandsAction」と共に、メッセージ付きで”手”の写真を投稿しました。

また、仙台・札幌・名古屋・京都・新潟などでも、コロナに配慮した少人数のオフラインアクションを開催。それぞれが思い思いのプラカードを持ち寄り、スタンディングアクション、スピーチなどを道行く人々に、また各地の様子をインスタライブで中継し、デジタル空間でも「より多くの人に関心を持ってほしい」とアピールしました。

気候ムーブメントで今、何が起こっているのか?

プレゼンスを増すデジタルネイティブ世代

グレタ・トゥーンベリさんに始まる気候マーチまでの一連の流れは、これまでの気候変動ムーブメントには見られない多くの要素を内包していました。

今回のムーブメントの中心となった若者たちの多くが、デジタルネイティブ世代であることがまず1つめの大きな特徴です。インターネットがあって当然の時代に生まれた彼らは、オンラインとオフラインを区別せず日常的にコミュニケーションをとっています。

SNSを中心としたデジタルを使いこなし、Webでイベントを申請、参加者はGoogle Mapに掲載されたイベント一覧から最寄りのイベントを地図で探し出し参加。さらに、当日のアクションの様子を写真や動画で撮影し、世界共通のハッシュタグと共にSNS投稿することで、環境問題に関心のあるユーザーとデジタル上でのモメンタム(活動の機運)をつくりだしています。

以前であれば、ムーブメント構築をする際には、地域コミュニティが大きな役割を果たしていました。普段からコミュニケーションの多い地元の地域コミュニティに加え、大学・宗教(教会)などの既存のコミュニティが中心となり、ムーブメントが広く拡散される例が中心でした。

しかし近年の気候変動ムーブメントでは、これらにデジタルコミュニティが加わってきています。ボーダー:場所、時間(時差)を問わず、ニュースやSNSを通じて関心を持った人々がデジタル上でつながりコミュニティを形成し、ムーブメントにまで発展しています。

デジタルネイティブ世代の特徴として「フラットな信頼関係」もあげられます。タテ社会のコミュニティを好まず、年齢に関わらず対等な関係性を尊重しています。

Fridays For Futureは団体としての位置づけではなく、代表を選定していません。更には、Fridays For Future Japanと各地のFridays For Futureの関係は上下関係ではなく、Fridays For Future Japanは各地のハブとして機能し、単に気候変動の解決だけではなく、彼らは新たなコミュニティの形を提案してくれています。

ストーリーテリングで広がる共感

また、デジタルデバイスによって可能となった各個人のストーリーテリング(物語による共有)によるコミュニティの広がりも重要な要素です。

これまで”気候変動問題”を伝える際、温暖化の原因や対策等を図やグラフで説明されたものや、被害状況を数値で伝えるのが通例でした。

しかし、彼らはSNSなどで世界共通のハッシュタグを利用し、個人レベルでつながりあいました。

海面上昇の被害にあっているソロモン諸島に住む若者や、甚大な被害を受けた西日本豪雨の被災者が、写真と共に気候変動問題解決を望むメッセージによって、これまでつながれなかった人々とこのグローバルな問題に立ち向かおうとしています。

これまでのマスメディアなどのオールドメディアでは伝わりきらない、それぞれのストーリーが、SNSによって出会い、新たな共感の輪が広がりをみせています。

気候ムーブメントとデジタルのこれから

グローバル・イシューとデジタル

350.orgは世界18ヶ国にキャンペーンを展開するため、コロナ禍以前よりZOOMやSlackを利用したリモートワークを導入し、デジタルを活用した国際的な署名やアクションをリードしてきました。

そんな中で、グローバル・イシューにおけるデジタルの重要性を日々感じています。

気候変動問題は、日本や、ある特定地域に限定された問題ではありません。グローバル・イシューを解決するためには各地域、各国家間の連携が重要となってきます。そのためには、リモートによって遠く離れた市民同士が理解を深め、草の根運動を展開することが重要となってきます。

コミュニティ形成のこれから

一方で、デジタルコミュニティでの一番の弊害は"帰属意識の維持"です。デジタル空間でのコミュニケーションは「この集団に属している」「仲間である」という意識を維持することが現段階では難しいように思われます。

Slackが4,700 人を対象にした「リモートでの従業員体験レポート」調査では、<生産性><ワークライフバランス><仕事のストレスや不安への対処><勤務環境に対する満足度>はオフィス空間よりも、リモートのほうが大きく優位性を示しましたが、唯一<帰属意識>のみがオフィス空間を下回りました。

このリモートによる帰属意識の低下は、個人それぞれの幸福にも大きく影響し、今後更にデジタル社会化が進む上で大きな問題となる可能性があります。

ノッティンガム・トレント大学の「Journal of Happiness Studies」で報告された研究では、帰属意識が高い人は幸福度が高いとの結果がでています。コロナ禍においても孤独感を覚えた方は多かったのではないでしょうか?

草の根運動、さらにはコミュニティにおいて<帰属意識>はとても重要な要素です。

これまで勉強会、アクション、気候マーチで自分の価値観と親しい人と同じ”場”を共有することで構築されていたコミュニティが、コロナ禍によってそれぞれが孤立感を覚えてしまう例も多く見受けられました。

コロナによってもたらされた新しい生活様式は、社会やコミュニティにおけるデジタルの強みと弱みを教えてくれました。より持続可能な社会を構築するためには土台となるコミュニティの構築が欠かせません

オフラインとオンラインをバランス良く組み合わせることができるのかが、グリーン・リカバリーを含むコロナ禍からの復興の鍵となります。


350.orgの仲間と田中さん

田中ゆうじ
田中ゆうじ

350 Japan デジタル担当 350.org Japanのメール・ソーシャルメディア・HP等のデジタルマーケティングを担当。元フリーランスデザイナーだった経緯より、同団体のブランディングからプロダクト・ウェブデザインなども手掛ける。 350.orgとは ニューヨークに本部を置く国際環境NGO。世界約180の国と地域で気候危機の解決に取り組んでいる。(1)新たな化石燃料関連プロジェクトを止める、(2)化石燃料ビジネスへのお金の流れを止める(ダイベストメント)、(3)再生可能エネルギー100%の社会への公正かつ迅速な移行を目指す。という3つの目標を掲げ、それらをピープル・パワー、草の根の市民活動で達成しようというのが特徴。 https://world.350.org/ja/ https://350jp.org

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