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「気候正義」とは何か その本質に迫る

「気候正義」とは何か その本質に迫る

2021年11月10日

最近、よく聞かれる言葉の1つに「気候正義」がある。正義という言葉の意味はわかるだろうが、これが気候と結びついたときに、どのような正義が求められているのだろうか。実は、気候における正義には、さまざまな側面があるのだという。東北大学教授の明日香壽川氏が、気候正義とは何を意味するのか、そして私たちに求められているものは何なのか、こうした点について解説する。

正義という魔の言葉

日本でも「気候正義」という言葉が聞かれるようになった。若い人たちが気候変動に関するアクションの際に使う「合言葉」になっており、それをメディアが紹介するようなケースが多く見られる。

しかし、その意味するところは若干バラバラであり、あまり深く考えずに使っているような場合もあるように思われる。もちろん、統一された定義などが必要ということではないものの、この言葉については、多少、歴史的あるいは国際的な文脈を把握していた方が、今後の議論を深めたり、アクションの説得力を高めたりするためには良いかと思われる。

気候正義は、英語の「Climate Justice」の訳だ。ジャスティス(Justice)の日本語訳は、正義の他にも、公正、公平、衡平など様々な言葉があり、それぞれ意味が微妙に異なる。例えば、公平は均等に近い一方で、衡平の方はある程度の差異を認めるとされる。

いずれにしろ、最近の道徳心理学や実験経済学の研究結果が指摘するように、不正義あるいは不公平感が意識にすり込まれると人間は合理的な思考を停止する。したがって、ジャスティスはいわば魔の言葉であり、何がジャスティスで何がジャスティスでない(アンジャスティス)と考えるか、あるいは感じるかは、人間の行動を決める上で極めて重要となる。

気候変動問題とは、正義や公平性に関する対立そのものだと言っても過言ではない。なぜなら、温室効果ガス(GHG)の排出削減問題は、突き詰めて考えると、有限のGHG排出量およびGHG排出量削減による費用と便益を、正義や公平性を考慮しながら何らかのルールのもとで分配するという問題に帰結するからである。それは、限られた量の水や食料を一定人数で分配するのと同じ難しさを持つ。

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明日香壽川
明日香壽川

1959年生まれ。東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授。東京大学工学系研究科大学院(学術博士)、INSEAD(経営学修士)、京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。(公財)地球環境戦略研究機関気候変動グループ・ディレクターを兼任(2010~13年)。専攻:環境エネルギー政策。著書:『グリーン・ニューディール世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書、2021年)、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社、2018年、共著)、『クライメート・ジャスティス―温暖化対策と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化―ほぼすべての質問に答えます!』(岩波ブックレット、2009年)など。

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