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「気候正義」とは何か その本質に迫る

2021年11月10日

世代間のアンジャスティスを超えて

第三のジャスティスの問題、すなわち「現世代と将来世代との間の分配問題」は、若い人にとって極めて重要だ。実際に、若い人が気候正義と声をあげる場合、世代間のアンジャスティスを意味している場合が多く、そのような声がメディアで取り上げられている。

しかし、それは若い人が声をあげること自体が少ない日本だからこそ、今は注目されている側面もあるように思われる。すなわち、いつもはおとなしい、あるいは一般に保守化傾向にある若い人の中に、すこし変わった「意識高い系」の若者がいて気候変動というマイナーな問題で吠えているからニュースになるというのが、メディアが取り上げている大きな理由ではないだろうか。

実際に、日本では、「気候変動対策は地球にやさしくすればよい」というフワッとしたイメージしか持っていない人が多い。自分とは関係ないと考えている人が大部分で、重要なイシューだと思っている人の数は他の国に比べて極めて少ない。ゆえに、10月の衆院選挙でも大きな争点にはなっておらず、「温暖化してお米が美味しくなった」と政治家が堂々と発言するのが今の日本だ。こうなってしまっている責任は、メディアにもあるし、気候変動問題の重要性を訴えている私たちや若者にもある。

いずれにしろ、若い人が「世代間のジャスティス」を単純に叫んでも、大人や社会が簡単に変わるほど、大人、特に日本の大人は甘くない。また、自分たち、すなわち先進国に住む将来世代の分配拡大を主張するだけだったら、国際社会、特に途上国の人からは共感を得られない。

冒頭でも述べたように、人は正義という言葉に敏感に反応する。一方、人はそれぞれ自分の正義を持っていて、それらが相容れない場合も少なくない。だからこそ、日本の若い人には、南北問題、貧困、格差、ジェンダーなどのより大きな文脈で気候正義をなるべく自分の言葉で丁寧に語ってほしい。その方が、かつては子供だった大人の心に刺さるはずだ。

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明日香壽川
明日香壽川

1959年生まれ。東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授。東京大学工学系研究科大学院(学術博士)、INSEAD(経営学修士)、京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。(公財)地球環境戦略研究機関気候変動グループ・ディレクターを兼任(2010~13年)。専攻:環境エネルギー政策。著書:『グリーン・ニューディール世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書、2021年)、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社、2018年、共著)、『クライメート・ジャスティス―温暖化対策と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化―ほぼすべての質問に答えます!』(岩波ブックレット、2009年)など。

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